「淡々と描かれる家族の平和の向こう側」関心領域 mittyさんの映画レビュー(感想・評価)
淡々と描かれる家族の平和の向こう側
「関心領域(The Zone of Interest)」とは、強制収容所を取り囲む40平方キロメートルの地域を表わすためにナチス親衛隊が使用した言葉らしいです。
映画自体、淡々と進みます。アウシュヴィッツ強制収容所に隣接する大邸宅に住む強制収容所所長の家族たちの優雅な暮らしの様子が映し出されますが、壁を越えたすぐ近くでは、ユダヤ人大量虐殺が行われているわけで、それを想像しないわけにはいかず、すごく気分が滅入りました。
実際の虐殺のシーンなどは一切なし。けれど、時々、聞こえてくる「音」は叫び声のようであり、銃音のようでもあり、間違いなく、隣には収容所があるわけです。ふと見ると、煙突から煙も上がっています。家族が暮らす家の庭の木々の緑が美しく花々も赤や黄色で鮮やか。プールもある十分な広さの立派な庭だけに、背中が寒くなるような恐怖があります。半ば過ぎ、胸がざわざわしてしまいました。
所長のヘス(クリスティアン・フリーデル)の妻を演じたのはサンドラ・ヒュラー。能面のような顔つきと、堂々と振る舞う姿が何とも恐ろしい。戦利品のごとく、ユダヤ人のものであろう衣類などを皆に分け与えるシーンや自ら豪華な毛皮を着て鏡をのぞく描写など、サンドラ・ヒュラーだからこそ、狂気の日常感を表せたのでしょう。
夜に少女が暗転して映し出されます。苦しむユダヤの人々にりんごなどの食物をこっそりと配っているようですが、せめて、これが唯一、救いの描写かなと思いました。
戦争の恐ろしさと同時に、人間の愚かさ、卑しさをも感じずにはいられませんでした。対岸の火事ということわざどおり、悲しいかな、人間にはそんな冷酷さや無関心があるのかもしれません。
と、書いているとちょっと滅入ってきましたが、遠くの戦争のことは他人事である自分もヘスの妻みたいな存在かもしれないと思い、映画の作り手に「どうなんだ」と問い掛けられているようにも感じます。