「人の意識が生み出した「無関心領域」」関心領域 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
人の意識が生み出した「無関心領域」
言葉もない。
恐ろしいホラー映画。
冒頭から異様。
なにもない画面のみを延々見せられたと思ったら次は「赤」など単色だけの静止画面をまた延々見せられる。切れ間なく流れるBGMのような重低音が不穏で神経を逆なでする。家族のピクニックや夫婦の寝室での会話など、なんでもないようなひとつのシーンが意味ありげに延々と続く。
最初から作為的にホラー要素で満ち満ちて、不穏で不安で不安定な気分に浸りながら映画をみることになる。
塀を隔てた向こう側での阿鼻叫喚は、当然、隣接する楽園のような所長一家の公邸にもダダ漏れ
一家の日常を捉えた同じ画面には、塀の向こうの常にオレンジの炎が上がり排煙を吐く収容所の煙突がもれなく映り込む
収容所から来る「臭い」だって相当なものがあるはず
客観的には、ぎょっとする異様な場所だ。
まともな人なら長居はできないだろう
それなのに、所長であるヘスの家族はそこで何を気にするでもなく、何人ものポーランド人使用人に傅かれて優雅で楽しげに暮らしている。
ヘスの妻など、自分が作り上げた夢の庭園が自慢でしかたないし、裕福で強い立場の自身が誇らしい。呼び寄せた母がノイローゼになって逃げ帰っても、感じるのは自分が作った自慢のおうちを母に拒絶されたことに対する怒りで、使用人に八つ当たりさえする。逃げ出して当然のこの家の異様さにまったく思いがいかない。
ありえない鈍感さ。無関心にもほどがある。
私にはそれが、ある部分を意識的に意識から排除したような不自然な鈍感さ、無関心、に見える。
私の実家は、田んぼに囲まれた住宅地で夏になると蛙の声がものすごい。
帰省するとバスを降りた途端にカエルの大合唱に迎えられて実家を感じるが、歩いて家につく頃にはすっかり「聞こえなくなる」。ダンナが泊まりに来て「ものすごい蛙の声で眠れないかも」と言うので、そうだった、と思うと途端に聞こえてくる。ヒトの聴覚は聞きたくないものは聞こえなくなるようだ。なので、ある程度所長一家の「鈍感さ」はわからなくもないが、感覚は聴覚だけではない。視覚も、嗅覚もあるし、人には想像力があるはず
ヘス一家の小さい女の子だけは子どもの勘からか、塀の向こうで行われていることに薄々気づいているよう。度々悪夢に怯え、煙突の炎と煙が、父が枕元で読んでくれるヘンゼルとグレーテルの結末の、「魔女はかまどで生きたまま焼かれた」に繋がっているよう。
怯えている娘に父親はなんでこんなホラーな絵本を読んであげるのか。
「悪者がかまどで焼かれる」と教育的に刷り込んでいるのでは、と思った。
たくさんの「悪者」が、毎日塀の向こうの炎と煙の見える煙突の「かまど」で焼かれている、(良い子のお前は心配しなくて良い)悪者だから懲らしめられて当然なんだよ、と。
そう考えたらゾッとした。
「ヒトラーのための虐殺会議」で思い知ったが、ナチスにとってユダヤ人は人ではない。例えるなら「害虫」または「害獣」。利用できれば利用し、最終的に殲滅を目指すのは正義にほかならない。元はヒトラーの意向を忖度したことのようだが、それが一糸乱れぬナチス・ドイツの徹底した全体主義により「宗教の教義化」し、信じ込んで疑いを挟む余地のないものになっていたことに戦慄する。
ヘスの妻は夫を厚遇する(=妻自身の地位も)ナチス・ドイツに寄り、良き信奉者でいるべく身も心も教義に忠実に振る舞おうとしているようだ。
その結果、おそらく無意識に「ユダヤ人が自分たちと変わらないニンゲンである」事実を頭から締め出して、しょせん害虫のことだから、と不自然な無関心ができてしまったように見える。
映画として視覚、聴覚に訴える演出で雰囲気を煽るが、
ニンゲンが自らの意識の操作でここまで人間性をなくせること、そしてそうさせたのはおそらく集団の狂気であること、が最大のホラーだった。
追記:
ホラー演出はあるものの、基本的にはアウシュビッツ収容所の塀を隔てた隣に住む所長一家の日常を淡々と描くだけ、音も背景も客観的に聞こえる通り見える通り、まんまをフラットに見聞きさせるだけ。説明や解説もなく観客には不親切極まりない作り。
それが逆に異様さを際立たせ、観客は諸々想像で補って自分の頭で考えざるを得なくなり、放棄するか考え込むかのどちらかになるでしょう。
私は多分、製作者の術中にはまったと思います。
世にもおぞましいものを観ましたが、観たことに後悔してません。
この映画の元となる記憶は、コレだけは止めようよにモロ値する出来事ですし、その記憶の同期が本当に必要、重要とおもいます。語り継ぐ事に限界がある以上、映画の果たせる役割は大きいですね。
術中、、たしかに😆ハマってしまってますね!そして私はハマりやすいクチで😅素直なところもあるんです?さておき優秀なAIが進化したらニンゲンなんか行動思考が分かりやすいと思われそうですね。既にGPTも「素晴らしい考えですね!」とか平気で褒めたりしてきますからね。やれやれですねぇ。欲があるからニンゲン。欲があればこその争い😫それでもコレだけは止めとこうよという申し合わせを平気で破る利権欲という現代の構造ですね。
おひさまマジックさん
私も、おひさまマジックさんも、この映画制作者の術中にハマった口みたいですね。
考えて突き詰めて、人社会が繰り返してきた普遍的と思える「悪行」を分析して、回避する術を探る、優秀なAIが可能にするかもしれません。但し、実行するとなったら、全員がそれを理解すること、全員の知識の底上げが必要だと思いました。
加害者側を知ることが、回避方法を見つけるためには重要だと思う。
ズレてたらすみません。。。
期間があきますが記憶に強く残る一作。ただ一人の人間の政治方針や支配欲が意図するしないに関わらず起こしていく死のバタフライエフェクト。古今東西の独裁者と配下の関係は変わらず信長・秀吉やヒトラー、金一族、ネタニヤフ…歴史上枚挙に暇はないですね。ブラック企業の社長と社員も構造は同じかと思います。ここまで普遍的だともはやヒト社会の宿業と認めざるを得ないそんな気持ちに。私達は歴史の本質を学び知識を底上げするべきです。
蛙のエピソード、なるほど!ですね。
ヘス家のこどもたちはあれを当たり前として育つのですから🥲
妻は、母親の様子から考えると昔は違う環境にあったのでしょうから、途中からからなんですよね。
影響というのはおそろしいなと感じます。
冬枯れした庭の場面では、寒いから友達がこないと言ったとかいってましたがあのあたりの意味をずっと考えています。
コメントありがとうございます。
本作の表現手法としては、自分も非常に面白かったと思います。
ただそれは“アイデア”が面白いのであって、“作品”が面白いかは、自分の中では別でした。
感じた内容が近くても、評価基準によって大きく星が分かれる作品だと思います。
寝室での会話中の笑い方ひとつで不快感を与えるサンドラ・ヒュラーは凄まじかったです。
コメントありがとうございます。
蛙の声のお話、人間が鈍感になれる瞬間の解像度が上がりました。
絵本の意味も言われてみれば確かに……ああいう仕打ちを受けるのは悪者だからという刷り込みと考えるとエグいです。
かばこさん、コメントありがとうございます。
皆さんからコメントいただいて、やっと意味が分かりました。
リンゴという台詞があったことは覚えているのですが、銃声は記憶になく、それらは全く結びつきませんでした。
それにしても、解説がないと分からない部分がある、かなり厄介な映画でしたね。
コメントありがとうございます。
ヒトラーのための虐殺会議、私も頭をよぎっていました。あれを観た時のなんとも言い難い感覚、近いものがありました。
そして、妻がなぜあれを理想の実現と思えるのか。と、あの無関心さ、鈍感さがなんなのか、疑問を持たずにはいられませんでした。
確かにあの小さな娘は、何かしらの異常さを五感で感じ取り、病み気味でしたね。
ベビーシッターも、赤ちゃんか夜中に泣きわめいてるのに、ボーッとして抱かないし、母も別の寝室で気にも留めない。皆、大事なものが欠けている描写でした。
わかりますわかります 引くに引けないヘスの立場
観客も 高尚な映画観てる感で トイレ行くわけにはいかない 引くに引けない
まあ 我慢大会 カモです😂 今後もよろしくお願いいたします🙇🙇。
満塁本塁打さん
コメントをいくつもありがとうございます!
なにげに歴史にお詳しいですね
確かにこんな状況がいつまでも続くとは思えません
当事者のヘスはもはや引くに引けない立場、思考停止して今のことしか考えずこの路線を邁進するしか無かったのかもしれないな、と思いました。
コメントありがとうございました。確かに 最初は 機器の故障❓このまま 何も無い画面続いたらどうしよう❗️と思いました。尺も長すぎ 私の膀胱的には不評でした。鑑賞後のラーメン🍜はキツい重いですね。 コメント3連発 すみません🙇
サンドラヒュラーは落下の解剖学を見てるから余計に この人演技が凄いのがよくわかりますね!
ドラマというかドキュメンタリー作品見てるような感覚になるし 音でこちらが想像して怖くなるって手法の発想が斬新だと思いました! あとこの手の作品なのに劇場は想像よりも客が多くて関心あるんだなあとは思いましたね。
一番欠けてるのは 功利主義でも良いのですが、もし戦争に大敗した場合 ヴェルサイユ条約同様 この行為は糾弾され 戦犯・・となることに気づいていない ヘス一家の 鈍感 無関心、思考の停止ですね。永遠に続く体制は難しいことくらい当時の歴史学で明白なのにですね。余計な追加すみません 失礼します🙇
イイねありがとうございました😭
地方から来た母親が去ったこと。思い込みの恐ろしさ 感じました いくら戦争状態とはいえ 目を逸らしすぎる思い込み 貴殿のレビューに教えられました 勉強になります📚
ただ 私的には 画面が黒か赤で🟥音声だけは 半分の時間で良かったです。リンゴの🍎少女
【リンゴの🍎少女になるのか ヘス一家になるのか?】コラムにありましたが
私的には抽象的すぎて 難しかったです。こう言う作品もたまにはイイですね。
ただ疲れるので 1回だけでもうイイです。お金は有効でしたが これ以上は支払えません。
素晴らしいレビューありがとうございました😭。失礼します。
かばこさん、コメントありがとうございます😊
恐ろしい映画でしたね‼️無関心なことが、この世で一番の罪なのかも・・・。まぁ、ヒロインは隣で行われてる地獄の黙示録に気づいていなかったんでしょうけれども・・・
吐きそうになって、口直しにラーメン食べるかばこさんも、さすがです‼️