「北野武監督の終わりの始まり」首 るなさんの映画レビュー(感想・評価)
北野武監督の終わりの始まり
戦国時代を舞台にした歴史スペクタクルでありながら、残念ながらその荒々しさや風刺の切れ味は空回りし、監督の過去の名作と比較しても冗長でまとまりのない作品に仕上がっている。本作は、戦国武将たちの権力闘争や裏切りをブラックユーモアを交えて描く意図があったと思われるが、そのユーモアは冗長な会話や説明過多の台詞に埋もれ、効果的に機能していない。結果として、観客を引き込む力を持たない凡庸な歴史劇に終わってしまった。
まず、最大の問題は脚本の構成とテンポの悪さである。戦国時代という混沌とした時代背景を活かしながらも、物語の展開が冗長で、緊張感に欠ける。北野映画特有の静と動のコントラストが効果的に活用されておらず、間延びしたシーンが多いため、観客の集中力を削いでしまう。例えば、権力闘争の駆け引きや陰謀が描かれる場面は、人物同士の対話に依存しすぎており、映像的なダイナミズムがほとんど感じられない。
次に、本作のキャラクター造形も問題が多い。主要登場人物の多くが戯画的に誇張されているものの、キャラクターとしての厚みがなく、単なるパロディのように映る。特に主人公を含む武将たちの描き方は、北野監督が意図したであろうシニカルなユーモアとは裏腹に、ただの滑稽な存在になってしまっている。
史実があるので多少の脚色はあろうが各武将、信長、明智、秀吉、家康、の年齢から明らかに不自然な見た目で、行動や言動もリアリティが欠け、戦国武将としての威厳や葛藤が十分に描かれないため、観客は彼らの運命に対して興味を持つことができない。さらに、俳優たちの演技も全体的に過剰で、芝居がかっており、特にコメディ的な演出が中途半端なため、笑いどころなのかシリアスなのか判然としない場面が多い。
また、演出面でも北野映画特有の美学が機能していない。過去作に見られたような暴力描写のスタイリッシュさや、無駄を削ぎ落とした映像美はほとんど感じられず、無意味に長いカットや冗長な会話が続く。加えて、音楽の使い方も印象に残らず、物語を盛り上げるどころか、単調な映像をさらに退屈にしている。
さらに、本作の風刺的な要素も中途半端で、どこを批判したいのかが明確ではない。戦国時代の権力闘争を現代の政治や社会に重ね合わせる意図があったのかもしれないが、それが作品のテーマとして十分に掘り下げられていないため、ただの皮肉っぽい歴史劇にとどまっている。北野監督らしいブラックユーモアやシニシズムが感じられる場面もあるが、それが物語全体の流れに組み込まれていないため、唐突に終わる印象が強い。結果として、観客に何を伝えたいのかがぼやけてしまっている。
総じて、『首』は北野武監督の作品の中でも特に散漫で、一貫性のない映画である。歴史劇としてもエンターテインメントとしても中途半端で、ユーモアとシリアスさのバランスも崩れているため、どの層の観客にも響きにくい。北野武監督のキャリアの中でも失敗作と評される可能性が高い作品。