「サイコパスの秀吉と歪んだ愛情を持つ信長」首 nonneさんの映画レビュー(感想・評価)
サイコパスの秀吉と歪んだ愛情を持つ信長
現代の価値観を照らし合わせた場合、
この映画も良くにまみれた“全員悪者”だ。
しかも、アウトレイジは自分の出世のため殺すが、
『首』は愛情も混ざっているのでより複雑な構造になっている。
男同士のセックスシーンが何度か描かれるので、
それに抵抗がある人は見ない方がいいと思います。
ただ、男色という言葉で一括りにしてしまうのはもったいない映画。
信長の心と体をここまで裸にした作品は他にはありません。
この中で出てくる信長は出世と性の欲望が丸裸になっています。
人間の欲の部分だけを切り出すと、こうも人は滑稽に生きている。
そんな北野監督のブラックジョークのセンスがちりばめられています。
信長は究極のサディストとして明智光秀を愛して、
明智光秀もそれを受け止めていた。それに嫉妬をする荒木村重。
そんな愛憎渦巻く安土城と対比して、
人が死ぬことに全く感情がないサイコパスな秀吉陣営。
目的のためなら当たり前に、
他人を欺き殺す、たけし扮する秀吉は清々しいほどの狂人。
神も仏も全く存在しない物語が終始描かれています。
戦国の世界だから、別世界として見ることができるが、
もしも、これが今の時代を作っている権力者の本当の姿だったらと思うと、
身の毛がよだちます。
北野監督が感じてきた生々しい事実を想像することもできるが、
「この映画は最悪だ」と言わんばかりに
たけし自身が最後に『首』を蹴飛ばすブラックユーモアとして締めくくられています。
ホラー映画を観た後に感じるような、
自分の置かれている場所の幸せを感じられる作品です。