劇場公開日 2023年11月23日

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「ビートたけしのブラック・コメディ」首 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ビートたけしのブラック・コメディ

2024年1月9日
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鑑賞方法:映画館

森蘭丸が容姿端麗だったと伝えられていることから、信長の男色の相手だったというのが定説になっている。が、当時の武将が若い男(稚児)に小姓として身の回りの世話をさせ、時に性交の相手にしたことはごく当たり前のことだったらしい。
考えれば、ひとたび戦になれば何ヶ月も居城を離れて陣地に詰めなければならない。そこには妻や側室はいないのだから、身近な若い男を相手に性欲を処理することは当然だったのかもしれない。いわゆる「衆道」と言われるものか。
そもそも、英雄色を好み、男女どちらをも相手にできることが力の象徴だったのかもしれない。

男同士とはいえ、肉体関係があれば恋愛感情も芽生えるだろう。
権力者を巡っては、その寵愛を求めて嫉妬や横恋慕をする者がいてもおかしくはない。
そういう武将どうしの恋愛模様を織田信長周辺の史実に乗せたアイディアが抜群である。私は男同士のラブシーンは好きではないが…。
そういえば、ビートたけしが俳優として出演した最初の大作である大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』は、ホモセクシャルが題材に含まれていた。やはり大島渚が衆道を扱った『御法度』にも出演している。どちらもビートたけしが男色を演じた訳ではないが。
そんな経験を踏まえた北野武の同性愛観が表れているのかといえば、本作でビートたけしが演じた秀吉はその点においては傍観者に徹していて、あくまでドタバタ劇のアイテムの一つに過ぎない印象だ。それが北野武の同性愛観かもしれないが。

さて、戦国の世は、敵の首を持ち帰って手柄を証明した。敵将が本当に死んだかどうかを首実検で確認した。
そんな戦国時代の「首」を巡る一喜一憂に対するパロディが本作の主題だろう。
実際、首実検で本当に誰の首かが判ったのだろうか、とも思う。しかも首実検ができる人間が限られているのだから、言った者勝ちな面があったかもしれない。
そんなことで武将の最期が歴史に刻まれていることを皮肉っている。どれでもいいから“信長の首”“光秀の首”と秀吉が言ってしまえば良いだけのことだと、考えてみれば笑える。
首取りに奔走する象徴的な人物として、農民上がりの茂助という男が登場する。架空の人物だと思うが、演じた中村獅童が時代に翻弄された愚かな人間の姿を好演している。

本作のバイオレンスは、北野武が過去のヤクザ映画で見せた「痛い」バイオレンスよりもワイルドな残虐描写になっている。
実際に首を切り取るには骨を断たねばならない。人を3〜4人も斬れば日本刀は刃こぼれし、血の油で刃が通らなくなってしまうというから、あれぼどスパッと首を一刀両断するのは簡単ではない。
そんなリアリズムよりも血糊のエゲツなさによるバイオレンスの方を北野武は追求したようだ。
ヤクザが腹を切ると内臓が溢れ出すというシーンを描いた人だから。

一番感心したのは、合戦のシーンの迫力とスピード感だ。
名だたる監督たちが大量エキストラを投入したスペクタクルには苦戦しているが、北野武の統率力と演出力はこの大規模なシーンにおいてもレベルが高かった。
曽呂利新左衛門(木村祐一)を元甲賀忍者という設定にしたアイディアも斬新だった。もしかして、そういう説があるのだろうか。松尾芭蕉の忍者説のような…。

配役はいつもの通りの豪華キャスト。
インパクトは信長役の加瀬亮がダントツだろう。尾張訛の狂気には恐ろしさがあった。
千利休に岸部一徳を当てたのも絶妙なキャスティングだ。彼の演技はいつもの飄々としたものだったが、いずれ秀吉を恐怖させる存在だと思うとなんだか面白い。

『レジェンド&バタフライ』が戦国ラブ・ファンタジー絵巻だったのに対し、本作は戦国ブラック・コメディ絵巻だった。

kazz
やまちょうさんのコメント
2024年1月13日

日本映画なのにエンドロール、すべて英語で併記してたのも記憶に新しいですね。仮に日本人向けでしたら必要ない「配慮」ではありませんか?

やまちょう
やまちょうさんのコメント
2024年1月13日

共感とコメントありがとうございます。今回、本作を厳しめに採点したのは、24年度より採用の「アカデミー作品賞、ノミネート基準:ポリコレ」にあまりに合致した設定だからです。官兵衛が足を引きずる、有色人種を配役、特に黒人をキーマンとする、家康の醜女趣味、数々の男色表現・・・すべて今流行りの多様性に準拠です。史実においても驚くほど整合性とれてるのは流石、と思いましたが、これは作品賞狙い撃ちしてると思われても仕方ないです。

やまちょう
だるまんさんのコメント
2024年1月11日

役者北野武がコメディ演じると、コメディアンビートたけしが見えて、どっちか分からなくなりますよね。

だるまん
トミーさんのコメント
2024年1月11日

共感&コメントありがとうございます。
レジェバタと比べちゃいかんですね~レジェバタは昨年のワースト5位に入ってます。志が全然違うと思いますが、出自のお笑い要素が浮いてしまってるのがキツイと思いました。

トミー
AKIRAさんのコメント
2024年1月10日

共感ありがとうございます。
戦国ブラック、コメディ、絵巻。
そうかもしれませんね。

AKIRA