劇場公開日 2023年11月23日

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「素晴らしい歴史映画、人間ドラマ」首 たこつぼさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5素晴らしい歴史映画、人間ドラマ

2023年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

知的

パワハラ上司の信長に耐えかねた武将たちが本能寺の乱を起こす話だが、そこに様々な要素が入り乱れているのが実に面白い。
ヤクザの幹部のような大名たち。その頂点にいるハイパーパワハラ上司の信長。その家臣たちが愛憎の情と欲望の打算でそれぞれ動いていく。
そして大名たちに率いられる軍、雇われ傭兵の忍者、被支配民である農民など各階層の人々をとても上手く描いている。軍はヤクザ幹部である大名に率いられたならず者の集団であり、忍者は傭兵のスペシャリストであり、農民はボロを着た汚い馬鹿である。
この無秩序の中で、各勢力の人々がどいつもこいつも自分勝手に行動し、理不尽な暴力で人がバサバサ死んでいく。
農民はあっさり焼き討ちにあって殺されたと思えば落ち武者狩りを行い、忍者は大名を暗殺したと思えば逆に大軍に襲われ里ごと皆殺しにされ、偉そうな大名も権力を失えばたちまち奴隷や農民に殺される。
我々のいる秩序に守られた文明社会とは全く異なる暴力と理不尽がまかり通る地獄の世界を淡々とコミカルに描いている。
そしてそんな地獄の主役はもちろん大名である戦国武将たちであるが、彼らが愛憎(男色含む)と欲望によってどのように謀反に至ったのか、複雑な人間社会を見事描いていると思う。

また歴史考証的にもなかなか良くできていて、当時の人々の常識が我々とは異なることをよく理解した上で歴史的な事実や社会のあり方や戦国武将をエッセンスとしてうまく抽出してストーリーに当てはめてる点も素晴らしかった。
荒木村重謀反の経緯や茶臼山の光秀饗応役事件や中国攻めや中国大返しなどを上手くストーリーに当てはめてたし、信長のパワハラ具合や領地の割り振りなどを見るとそりゃ謀反起こすよなと思ったし、この裏切り裏切りの果ての勝者である秀吉もやがて信長と同じように狂った挙げ句弟の秀長を殺すんだよなあと思うと不思議と腑に落ちるところがあった。
やたら女性中心だったり、やたら「民・民」いったりするNHKの大河ドラマよりこちらの方が戦国時代をうまく表現していると思う。

唯一残念のは光秀の凋落が描かれてないこと。
天下を取るために謀反を起こしたにも関わらずなぜ秀吉にあっさり破れたのか全く描かれていない。諸侯の協力を得られなかったことや秀吉に裏切られたことを知った瞬間やその秀吉が信じられないほど早く戻ってきたことなどを5分でいいから光秀視点で描いてほしかった。
それができてれば★5だったが、そこだけ残念なので4.5にしました。

たこつぼ