「オペラ・ガルニエの内景をみるだけでも!」テノール! 人生はハーモニー 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
オペラ・ガルニエの内景をみるだけでも!
パリ郊外の低所得者用住宅に住むアントワーヌは、昼の仕事であるデリバリーでスシを届けたオペラ座で出会った一流のオペラ教師、マリーの導きにより、オペラの道に進もうとする。
何と言っても素晴らしいのは、荒川さんにトリノで金メダルをもたらしたプッチーニのオペラ、トゥーランドットのアリアNessun dorma(誰も寝てはならぬ)をアントワーヌがオペラ座の舞台で歌うところ。感激で涙を抑えることができなかった。
プッチーニやヴェルディの定番ばかりでなくフランスを代表するビゼーやドビュッシーのオペラ・アリアなど、出演者たちが実際に歌うところが一つの見どころ。本物のオペラ歌手であるロベルト・アラーニャは、それに花を添える。
一番心に残ったのは、マグレブらしい移民層のアントワーヌが、兄ディディエの地下格闘技により資金を保証され、夜学で会計学を勉強し、ラップに喜びを見出していたものの、ヨーロッパ伝統の市民層(セレブを含む)のものであるオペラにひかれて行き、アイデンティティ(自分とは何か)の喪失に悩むところ。
アントワーヌが郊外の住宅の屋上に出て、はるか北側のエッフェル塔を見ながら、アリアの練習をするところも良かった。
それにしても、ストーリー自体は定型的なので、あやふやなところが満載。
マリーは病気みたいだけれど、本当にしたいことは何?
幼馴染のサミアは、軍隊に入隊したはずなのに、どうしていつもいるの?など。
パリには移民映画というジャンルが前からあるので、この映画の方向が、近年頻発しているテロや暴動の抑制につながるとは、とても思えない。やはり両者の融和を考える勢力が背景にあるのだろう。オリンピックも来年に控えているし。
それにしても、アリアを聴きパリ・オペラ座ガルニエの映像を見るだけでも十分楽しめる映画だ。ぜひ、劇場で。