劇場公開日 2023年4月14日

「短編映画のロングバージョンだけに、一切の無駄なくウォン・カーウァイ監督の映像美を堪能できる一作」若き仕立屋の恋 Long version yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0短編映画のロングバージョンだけに、一切の無駄なくウォン・カーウァイ監督の映像美を堪能できる一作

2023年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

仕立て屋という職業の醸し出す独自の雰囲気が物語映えするのか、これまでもパトリス・ルコント監督『仕立て屋の恋』(1989)やポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』(2018)など、仕立て屋を主人公とした多くの名作が作られてきました。衣装という、身体と密接するものを自らの手で丹念に作り上げていく、という所作が、恋愛というテーマと絡めやすいのでしょうか。そして本作もまた、仕立てを通じてある種濃厚な接触を繰り返す男女の欲動そのものを描いています。

短編作品を膨らませているため、映像には一切無駄がなく、しかし物語としても十分な厚みを備えています。スタイリッシュな映像美で統一するのかと思いきや、仕立て屋の青年チャン(チャン・チェン)とホア(コン・リー)との出会いがなかなか直接的、扇情的で、単に美しい映像を見せるだけの作品じゃない、というカーウァイ監督の強いメッセージを否応なく感じました。

香港の雑多で生活感溢れる風景と、現世から超然としているかのようなチャンとホアの対比が織りなす映像は、まさにカーウァイ作品そのもの。あまりにも無駄がなさすぎて、決め打ち映像のダイジェスト版になっている要素も無きにしもあらずだったんだけど、よく考えてみれば独特の間が印象に残る『欲望の翼』(1990)も『ブエノスアイレス』(1997)も、『恋する惑星』(1995)や『花様年華』(2000)すら、独特の間と物語の厚みが印象的なカーウァイ監督の代表作群は概ね、上映時間100分以下と、長編映画としては短めなんですね。あたらめてカーウァイ作品の密度の濃さに驚きました。

yui