「なにやってんだ、おれ」白鍵と黒鍵の間に 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
なにやってんだ、おれ
2023年。冨永昌敬監督。バブル真っただ中の1988年。修行のために銀座のキャバレーに入り込んだピアニスト志望の若者は、ある晩、出所したばかりのやくざから受けたリクエスト曲を機にトラブルに巻き込まれる。3年後に銀座のクラブでピアノを弾いている自分自身とすれ違いながら、人生に理想を求めてもがくピアニストの物語。「なにやってんだ、おれ!」が口癖。
実際には、1988年は主人公が銀座に来て3年後ということであり、周囲の世界は3年後の世界なので、冒頭、銀座に初めて足を踏みいれる主人公は1985年のはずであり、それが3年後の世界に迷い込んだ(しかし自分自身とだけは対面しない。すれ違うけど)という形になるようだ。「いつになっても理想を追い求めつつ現実に縛られることへの苦悩」というテーマからすれば、時間設定を綿密にたどっても仕方がないのだが。
描きたいことはわかる。この人生でもっとマシなことができるはずだと思いながら悶々として生きる出口のない息苦しさはよくわかる。出口を見つけて走り出す気持ちも。そうだとするなら、デモテープの場面と走り出す場面はもうちょっと輝いていてもいいのにな、とも思う。でもいい映画だった。
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