「nonchalant」白鍵と黒鍵の間に いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
nonchalant
ウッドベースの重低音から始るオープニングは、ラスト前の銀座の"奈落"と対を成すゴミ捨て場の暗い、そしてハードボイルドなノワール映像である
今作も又変化球な構成であり、原作の描いている年数をギュッと夜から朝に掛けての話に凝縮し、主人公の登場と退場を別に分けつつしかし時間軸を同時に進行して演じられるかなりのトリッキーな構造を用いる
紹介文では、池松壮亮一人二役という文言だが、これが却って観客に混乱を来たす元凶になっていると思う あくまで一人分の役(オルターエゴというらしい)なのだ 銀座で未だ燻っていた頃、そして銀座から足を洗い本格的に海外に飛び立つ決意を持った日、それが昭和63年の暮れも押し迫った一夜に交差する設定なのである しかし、その他の登場人物はそれぞれの主人公を切り分けて対応しているという摩訶不思議な交わりになっているため、回想シーンとは違う、強烈な惑いの演出として進行していくのだ
主役の姉弟子の各対応は、多分その時代をシームレスに描いているのであろう かなり混乱したのだが、しかし段々と終盤になるにつれ、観方のコツを掴んできた
自分が成人の年の銀座界隈はバブルで酔っていた時代であり、とはいえ、昔のような雑多さは落ち着き、シックでモダンなクラブが沢山軒を並べていたのだろう ビルの地下から最上階迄ビッシリと収まっていた飲み屋はそのクラス分けによってピンキリである 勿論、自分が暖簾を潜った事も無いので伝聞だ
前半の『バード』の台詞と、呼応するように『チャーリーパーカー』のジャズ話 物語のキーワードは題名の通り"ノンシャラント"の謎の用語 これを会得しなければ師匠から指摘された"足りないモノ"を埋められない そんなマスターピースを探す為の"銀座"なのである
出演者がどれだけ楽器や歌を実際やっているのかは不明だが、池松のピアノ、クリスタル・ケイや川瀬陽太の歌等は実際奏でていたであろう 折角、男闘呼組でギターやっていたのだから、高橋和也は弾いていたのか何方か教えて欲しい
さて、話の筋はどんどんカオス化していくし、ジャズなのか、歌謡曲なのか、はたまたヤンキー車のサイレンの代名詞『ゴッドファーザーのテーマ』なのか、そんな坩堝が渦を巻いて登場人物達を翻弄していくシナリオも、それこそ主人公の口癖じゃないけど「一体何を観せられているのだ・・・」的なクエスチョンの渦が脳を支配し始める 勿論、今作の白眉である、デモテープ作成のスタンダードジャズ『Nobody Knows You When You're Down And Out』のアンサンブル演奏は、あのバブル期に"花瓶"だった自分達の存在が初めて檜舞台に登ったシーンだ そしてそこから怒濤の困惑の流れと堕とされる そして凶器のカセットレコーダーと死体と共に奈落へ突き落とされる主人公 マジックリアリズム的演出は観客を二分する 自分はこの混沌が大好物だがw 死体まで説教され、その奈落から外に這い上がれない主人公は、そこで未来を掴めなかった側の自分と対峙する そして乞食である自分が藻掻きながらブレイクスルーする先は母親とワクチン証明書代わりの母子健康手帳 晴れて喫茶店ではない"ボストン"バークリーに留学に挑む主人公の手にはデモテープ
次の日の、もう1人の自分は銀座でキャバレーからクラブへ戦場を替えてスタートを挑む姿が晴れ晴れしく銀幕を彩る
奇妙でしかし挑戦的、まさにアート作品と称賛したい作品であった
PS.別批評で、ギャグの間が悪いということが指摘されていたが、コントではなく映画なので、ポンポンとリズミカルに演出しないよう敢えて"ノンシャラント"の様でのスピードの緩急を恣意的に色付けしたのだろう それも立派な個性である