「今回のクリちゃん」白鍵と黒鍵の間に TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
今回のクリちゃん
この作品の予告編を初めて観たとき、確かテアトル新宿だったと記憶しますが、その時の第一印象は「公開日が意外に先だな」と思いつつ、ただ、「これはテアトル新宿さんの自慢のodessa(音響システム)のPR映画では?」という訝しみもあったことは事実です。とは言え、その雰囲気といい、題名といい、そして予告編に次々と登場するキャスト達に期待は膨れるばかり。要するに私も作品を鑑賞して気が付く「騙された口」なのですが、それほどネガティブな印象はありません。いわゆる「シットコム」ですね。野暮を言えば、案外序盤から設定は「こういうことでは?」と気づく人も多い気がします。まあそれだって別にマイナス評価ではありません。
特に期待を裏切らないキャスト達の演技は素晴らしく、ちゃんと面白くてほぼ全部においてスベってません。
何と言っても三木役の高橋和也さんですね。私、この人が演じる「品のない」人物が大好きなんですが、今回も間違いなく鉄板です。ちゃんと「昭和の杜撰(ずさん)さ」が演じられていて、当時を生きていた私たちを掛け値なく納得させてくれます。
そしてクリちゃんことクリスタル・ケイさん。歌がサイコーなことは言うまでもなく、予告編でも流れるシーンは聴きごたえ十分で、まさにodessaで聴くとまた「一味も二味も違う」のだろうと想像できます。ただ、侮るなかれ。今回のクリちゃんは単なる「歌うま要員」ではありません。「シンガー」として米国から鳴り物入りの“つもり”で来日したリサを演じる彼女はセリフは基本英語ですが、南(池松壮亮)の「なかなかな英語」を相手の掛け合いが絶妙に面白く、さらに、ヨッパライとの絡みは爆笑です。そのほか、例を挙げればきりがないので省略しますが、皆さんいい味出していると思います。
では、総じて面白いのか?と問われれば「それなりに」と言った印象ですかね。かなり大胆に脚色してるようですが、原作(未読)とそのモデル(原作者)がいる話なのですが、決定的な瞬間はやはりふんわり感が否めない印象で、むしろ、見ている方はその表しがたい何かを自分に投影しながら観ていていると、結局、肩透かしな印象で「共感」止まり。ベタになっても、そのふんわり感をもう少し具体的に明示してくれた方がコメディとしてもメリハリが出来たような気がして少々惜しいと思いました。あと一歩!