おしょりん : インタビュー
北乃きい&森崎ウィン、「おしょりん」で確かめたものづくりの尊さと、諦めない力
日本のメガネの95%を生産している福井県。実話をもとに、福井県がメガネの聖地となるまでを追いかけた映画「おしょりん」(公開中)では、メガネ工場をゼロから立ち上げた兄弟と、ふたりを信じ、支え続けた妻の物語を明らかにしている。メガネづくりがその土地に根付くまでの困難など史実としての面白さに加え、ものづくりにかける人々の情熱が全編にわたって染み渡る本作。今回初共演を果たした北乃きいと森崎ウィンが、ものづくりの厳しさと尊さを映し出した「おしょりん」から受け取った刺激とはーー?(取材・文/成田おり枝、写真/間庭裕基)
明治37年、福井県足羽郡の庄屋の長男・増永五左衛門(小泉孝太郎)と結婚したむめ(北乃)は、育児と家事で忙しい日々を送っていた。ある日、五左衛門の弟・幸八(森崎)が勤め先の大阪から帰郷し、村をあげてメガネづくりに取り組まないかと持ち掛ける。挑戦を決めた五左衛門は村の人々を集めて工場を開くが、メガネづくりの道のりは困難の連続。そんな五左衛門と幸八を支え続けたのが、決して夢を諦めない強い心を持つむめだった。彼女に励まされた兄弟と職人たちは、“最後の賭け”に打って出る。
■メガネづくりの歴史を辿る旅 「知らないことばかりで、とても勉強になりました」
――福井でメガネづくりが始まるまでの人間ドラマを描く本作。脚本を読んで、ぜひ参加してみたいと思った理由を教えてください。
北乃「私はもともと明治という時代が好きで、また実在した人物を演じることもとても好きです。実在した人物を演じるには、その方を知っている人が『この人はこういうことをしない』と感じるようなことはできないですし、特別なプレッシャーがあるものですが、私は少しピリッとした緊張感をもって作品に臨む方が好きなタイプで。今回もいい緊張感とリスペクトを持って、むめさんを演じたいと思いました。福井県でどのようにメガネづくりが始まったのかを描く物語ですが、私自身も知らないことばかりでとても勉強になって、そういった意味でも携われてよかったなと感じています」
森崎「福井県が有名なメガネの産地であることはもちろん知っていたのですが、その背景にどのようなことがあったのかまでは知らなくて。本作に携わったことで、とても勉強になりました。また僕らもクリエイティブな現場で日々を過ごしていて、オリジナリティを見つけながらいろいろな表現に挑んでいます。すると、時には『こういうことをやっていいのかな』と躊躇してしまうこともあります。だからこそ本作の脚本を読んだ時には、困難がありながらもメガネづくりに打ち込んでいく登場人物たちから、ゼロをイチにしていく人々の強さを目の当たりにして、僕自身たくさんの勇気をもらいました。『直感で信じたものに突き進んでいく力って、やっぱり大事なんだな』と思って、ちょっとシビれましたね」
■北乃きい&森崎ウィン、初共演の感想は? 「ものすごく気さく!」
――おふたりは今回が初共演となります。先の見えない道のりを進むメガネ職人たちを励まし、照らし続ける女性・むめを演じた北乃さん。持ち前の行動力と発想力で、兄にメガネづくりを持ちかける幸八を演じた森崎さん。お互いの目から見て、「役柄にぴったりだった」と思うことはありますか?
森崎「北乃さんとは『初めまして』でしたが、なぜか初共演という感じがしなかったんです(笑)。すごく気さくな方で、なんでも言いやすい……みたいなところもあって」
北乃「それはお互い様です(笑)!」
森崎「北乃さんは周りがとても見えていて、たくさんのメガネ職人たちがいるなかでも、全員に分け隔てなく気配りをすることができる。自分のことにいっぱいいっぱいになって、周りが見えなくなるということがないんですね。むめさんは、その場にいるだけでみんなに力を与えられるような存在ですが、北乃さん自身もまさにそういった感じでした。『この人が主演でよかったな』と感じることがとても多かったです」
北乃「そんなこと、初めて言われました(笑)。すごくうれしいです。森崎さんはとても気さくで、社交的な方なんです。裏表がなく、いつもこのまま。幸八さんは、村に新しい風を吹かせるような存在で、彼がいなかったら五左衛門さんが動くこともなかったのかなと思うんですが、森崎さんもまさに“新しい風”、トルネードのような方です(笑)! 自分の世界観をきちんと持っていて、周囲を巻き込んでいく力があるなと思っています」
森崎「風! ありがとうございます(笑)。北乃さんとお芝居をしていると、いろいろな球を投げてきてくれてとても楽しいんですよ」
北乃「森崎さんは感性が鋭いので、こちらがいろいろな球を投げると、またいろいろなものとして返ってくる。だから『どんなものを投げても大丈夫』だと思えるし、怖くないんです。ものすごく安心感があります」
森崎「お互いに信頼しながら、お芝居をできた実感がありますね」
■諦めない原動力を告白
――劇中の職人たちは、実用品としてだけではなく、「人々を喜ばせたり、楽しませたりするようなメガネを作りたい」という思いを注ぎながら、仲間と一緒に仕事に打ち込んでいきます。「心を込めてものづくりに励み、それを誰かに届ける」という意味では、俳優さんのお仕事とも重なるように感じます。本作から刺激を受けたことや、改めてものづくりのよさについて感じたことはありますか?
北乃「今回はプロデューサーの河合広栄さんから、本作を撮ることができるようになった経緯をイチから伺うことができました。『こういう映画をつくりたい』という思いを背負うことができるのは、プレッシャーもありつつ、すごくうれしいことだなと思っています。また映画をつくるために協力してくださった方々にも、たくさん会うことができました。ケータリングをしてくださったり、劇中の子役さんも地元の方だったりと、地元の方にたくさん協力をいただいた作品だなと感じています。本作を見た方からは『福井に行きたくなった』と言っていただくこともありますし、福井でご飯を食べていると『おしょりんに出ている人だ!』と声をかけていただくこともあって。俳優というお仕事が、地域に貢献したり、応援したりすることもできるんだと思うと、すごくうれしかったです」
森崎「本当に、地域密着という感じの温かな撮影だったよね。ゼロをイチにする人たちを描く本作から、僕もたくさん刺激を受けることがありました。河合プロデューサーも『こういうメッセージを映画にのせたい』という思いで、本作をゼロからイチにしていったわけですよね。映画ができるまでには、汗水を垂らしていろいろなところに足を運んで、話を聞いたり、資金や人を集めたりと、たくさんのご苦労があったと思います。それって、足を使ってあちこちに掛け合い、メガネづくりを始めた幸八の姿とも重なるもので。僕はそんな幸八を演じたからこそ、河合プロデューサーがどんな思いで突き進んできたのかが想像できる部分もありました。『これをやりたいんだ』という直感と信念、そして努力があれば、きっと形になる。幸八と河合プロデューサーから、情熱を持ち続けることの大切さや、ものづくりの尊さを改めて教えてもらったような気がしています」
――困難があるなかでも立ち上がっていく、登場人物たちの“諦めない力”が胸を打ちます。おふたりが俳優道を歩む上で、原動力となるのはどのようなものでしょうか。
北乃「自分の人生を考えてみても、これだけ長く続けられているのはこのお仕事だけなんです。なぜ諦めずに続けてこられたかというと、やはりたくさんのすばらしい出会いがあったからだと思います。『あの時に辞めていたら、あの人、あの作品、あの役には出会えなかった』と感じることばかりです。本作では、むめさんという素敵な女性に出会うことができました。むめさんは内助の功を発揮する女性でありつつ、現代を生きる女性のような強さを持っている人。私自身、憧れるような女性です。むめさんの子孫にあたる増永家の方にもお会いすることができたんですが、映画ができることをものすごく喜んでくださって。『実在の人を演じるって、こういうことなんだな』と実感しましたし、増永家の方々が思い描いているむめさんを演じたいと強く思いました」
森崎「この世界は、目指したところにまっすぐ行けるわけでもないですし、浮き沈みもある厳しい世界でもあります。でも今思うのは、諦めずに続けてきて本当によかったなということ。そんななかで原動力となっているのは、負けず嫌いなところだと感じています。『僕はこれをやりたいんだ!』と思うことには熱意を持っていたいですし、そのためには自分が苦手なものもきちんと受け入れて、きちんと向き合い続けたいと思っています。お芝居には正解がないし、毎回新しいキャラクターに出会うことになりますが、お芝居で対峙する方から感化されることもあって、そういった瞬間もとても刺激的です。いい俳優さんと出会うと、なんだか燃えてくるんですよ! 『この人は、どんな感覚でこういう芝居をしているんだ!』『こう投げてくれた。こう返してみよう』とお芝居でキャッチボールできると、ものすごく楽しいです」