「生き地獄」ミッシング かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
生き地獄
子供を持ったことがあるヒトは多分見ていられない。キツすぎる。
子持ちにとって考えうる最悪の事態で、観たくないと思いながら映画ファンの性で観てしまった。
モデルになったのは、山梨のあの事件だろうと容易に想像がつく
顔を知っている個人的に関わりのある人達は概ね、夫婦に同情的で協力的だが、ネット上ではバッシングの嵐。プライバシーは暴かれ、根拠ない憶測からとんでもない決めつけと、誹謗中傷が横行する。ネット上の顔の見えない相手はただのアイコンでしかなく、送信する側も匿名なのでお手軽お気楽に蜜の味の他人の不幸を楽しむことができる。うさばらしや、正義の押しつけ、顔を知っている人達にはとてもできないことができてしまうのだ
ネットを見ないのが一番と思うが、そうできないのが人間だ
報道は、影響の大きさからあくまでも公平であるべきで、憶測や根拠の少ない決めつけにそった編集をしてはいけないのは「正論」だが、所詮視聴率あってのものなので、良心的報道を心がける記者にはジレンマを生む。砂田のような良心的記者がどれくらいいるのだろう。
石原さとみが圧巻。
娘を取り戻したい一心しかない、取り戻すためなら何でもする
時に愚かですぐに取り乱す、キレて暴言を吐き、当たり散らす。かと思えばすがれる相手には土下座せんばかりに行動を謝罪して身も蓋もなく協力を要請する。
ちょっと地方のヤンキー入ってる、し◯むらのトレーナーやTシャツ着てそうな普通の若い母親を、演技とは思えないくらいリアルに演じる。キレイな可愛い子ちゃんなところが微塵もない
そして、夫・豊役の青木崇高が素晴らしい
黙って諸事万端切り回す。実は細かいところにも気を配っている
大抵の夫婦なら、この二人の夫婦喧嘩の様子にリアルを感じると思う。
胸が張り裂けて普通でいられない妻を支え続ける。暴言吐かれても一緒にキレることなく、控えめに宥めて妻を刺激しないように、落ち着かせようとする、そして、自分としては反対でも最終的には妻の意志に沿ってできる限り付き合う。彼は暴言吐かれても振り回されても妻を一切責めない。妻の辛さが十分分かっているからだろうと思うし、自分まで壊れたらおしまい、と、頑張って冷静に踏みとどまっているよう。
救いがないこの映画の中で、このふたりの夫婦愛だけが、若干の救いだった
沙織里の弟圭吾は、多分知的にボーダーか発達障害だと思う
騙されやすかったたり変人や怪しげに見えたり生きにくいタイプだと思う。
姪の失踪で一番傷つけられ救われないのは彼だ。
テレビ局は明らかに視聴率狙いで彼のインタビューを撮ったのは明白、事実反響は大きく。
そもそも番組作成側に彼が犯人というバイアスがかかっていなかったか。
決めつけは冤罪を生むことに繋がると分かっていながら。
娘が保護されたという電話に、私も眼の前が明るくなった。ドキドキして嬉しかった。
希望の絶頂からどん底へ。そんなイタ電するか、それ、面白いのか
ヒトの悪意の底知れなさに胸が詰まった。
新たに行方不明になった女児が無事保護されたとき、沙織里は本当に「よかった」と思ったのか。なんでうちの娘じゃないのか、とか、うちと同様に見つからなければよかったのに、と思わなかったか
この失踪女児の母親が、駅前でビラ配りをする夫婦のもとに現れて、できることをさせてくれ、というところ、彼女も犯人が元彼で、相当バッシングされたと思う。それでも申し出る。そこで今まで堪えていた豊が堰を切ったように嗚咽する。
心が抉られるようでもらい泣きしてしまった。
こういう繋がり方ができるのが、本来のヒトではないのか
幼い娘が失踪した夫婦に起きうる事態を網羅したようで、エピソードが多く、尺が長いが、省略しても良いと思われるものが一つもなく、始終重たい心で最後まで観ました。
誹謗中傷に豊が立ち上がり、弁護士に相談、泣き寝入りしない行動を起こしたことで投稿者が検挙される。やりたい放題は許されず法も無力ではないことを示したのは良かったと思う
見終えて、重苦しく苦い思いで胸が塞がる。
夫婦の苦しみには終りが見えない
延々と、いつまで続くのか
生き地獄だと思う
共感&コメントありがとうございます。
石原さとみさんの凄まじい演技に注目が集まりがちですけど、それを全身で受け止める青木崇高さんの演技もめちゃくちゃいいですよね。同じ悲しみを背負いながら、それを見せずに娘の無事を祈り、献身的に妻を支え続ける夫の心情が、ラストの嗚咽から痛いほど伝わってきます。
おはようございます!
暴走しがちな奥さんと、それを抑える夫って感じでバランスとれてましたよね。二人して沙織里みたいになってたら大変ですし。
青木さん演じた豊は私もいいなと思いました。
コメントありがとうございます。
最後の涙には、妻の(ある種みっともない)必死の行動に“成果”があったことなども含まれていると思います。
「見なければいい」と言っていた誹謗中傷者を訴える決意をするくらいですし。
あそこは、豊が常に美羽ちゃんだけでなく沙織里も“守るべき存在”と見ていたことがよく表れていました。