「お気持ちは分かるって、どのくらい分かる気持ちで言ってます?」ミッシング 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
お気持ちは分かるって、どのくらい分かる気持ちで言ってます?
行方不明になった娘を探し日々憔悴していく母親を、石原さとみが演じる。ネットの書き込みを見て、世間の辛辣なる暴言と冷たさに削られていく精神状態が痛々しい。というか、役作りが真に迫りすぎていて、言葉を失うほどスクリーンに見入った。髪はボサボサ、服装にさえ気を配れず、目は血走っている。口の端が荒れるほど役に没頭する石原さとみの凄み。
子探しの母と父の温度差が伝わってくるが、それは見た目。父親がけして無関心なわけではなく、母親の暴走を冷静に見極めようとして、むしろ落ち着かざるを得ない。たいてい、こういう経過をたどった夫婦は離婚しがちだけど、しなくよかった。それだけでも父親青木崇高が母親石原さとみに寄り添ってあげていた証左だ。
その夫婦の熱量に、どの立ち位置で接していいのか悩むテレビマン。夫婦に寄り添うか、視聴率を取れる"面白い"番組にするか。人は概して、その出来事がわが身のことにならないと本当の痛みはわからないものだ。だからたとえ小さなことでもわが身のことになればすぐに痛みを感じてしまう。それが世の中なのに、他人であるテレビマン中村倫也に折れない良心があったことが救いだった。
そして数年経ち、なんの希望も見いだせない母親は、緑のオバサンを始める。子供たちに寄り添うことで自分の気持ちを癒すのではなくて、少しでも子供たちを守る側に立ちたいって気持ちからだろうか。その姿を見た時、ああこれはこのまま未解決となるのだな、と察した。そしてその通りだった。その終わり方は辛いのだけど、むやみにハッピーに終わらせるよりもリアリティがあっていいと思った。
先日、映画『正義の行方』を見た。こちらはドキュメンタリで、女児二人殺人容疑で死刑確定し執行された死刑囚が冤罪ではないかとして再審請求をいまだ弁護側は続けているのだが、もし冤罪が晴れたとして、じゃあ本当は誰が犯人なのかモヤモヤは晴れない。そんな事件をはじめとして、世間では、失踪や誘拐を含めて子供が絡んだ未解決の様々な事件がたくさんあるのだろうな。そして、当事者のほかはそんなニュースを聞いても、また新しいニュースに流されて忘れていくのだろうな。