「吉田恵輔 監督の凄さは良く分かった。それだけにラストで・・・。」ミッシング Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
吉田恵輔 監督の凄さは良く分かった。それだけにラストで・・・。
吉田恵輔 監督による2024年製作(119分/G)の日本映画。
配給:ワーナー・ブラザース映画、劇場公開日:2024年5月17日
吉田恵輔の脚本監督作品だから、人間の心の動きの描写が中心で、失踪した娘は戻らないことは予想した。その通りというか、予想以上に何も起こらない映画で、それでも大丈夫、映画として十分に成立するという吉田監督の自信に基づく挑戦、そこに凄みの様なものは感じた。
実際、周りに当たり散らしすっかり壊れていた母親石原さとみが、同様の行方不明事件で娘が見つかったことに本当に良かったと唱えるシーンに、壊れた心もここまで回復出来るのだとの感慨を覚えた。そして、街頭でビラを配る彼女に、娘が見つかった母親から、活動に協力させて下さいと声をかけられるシーンでは、母なる者の気持ちの美しさ・強さを見せつけられたせいか、強くウルッときた。この街頭シーンでの石原さとみの表情の凛々しさも、素晴らしかった。
ただ、自分はシン・ゴジラの石原さとみの演技を下馬評と異なり高く評価するものだが、期待が高すぎたせいもあるかもしれないが、主演の彼女の演技は全体的には少々期待ハズレであった。特に、娘が保護されたと警察に駆けつけ、それがイタズラと分かった時の彼女の吠える様な叫び声。意外性により壊れた彼女の印象付けを狙った監督の演出と思えるが、人間は本当にガックリときたとき大きな声を出せるだろうか?重要なシーンだと思うが、自分にはリアリティが感じられず、彼女に共感をすることが出来なくなってしまい、残念な演技に思えた。
一方、彼女の夫役青木崇高の演技には感心させられた。ネットの中傷に怒りまくる妻に呆れながら、或いは誕生日でないのにTV撮影様に娘不在の誕生日パーティーを行う妻に疑問を感じながら、ずっと彼女を支え続ける包容力がある夫を、実にナチュラルに演じていた。
娘失踪事件の取材を続けているのが、地元TV局の記者中村倫也。彼は「事実を報じる」をモットーとしセンセーショナリズムからは遠ざかっていようという人間。しかし、上司からの圧力もありネット上であいつが怪しいと言われてもいる石原さとみの弟森優作の取材を敢行。口下手な彼は、その映像により、世間から犯人扱いされてしまう。後輩は政治家スキャンダルのスクープに成功し、キーTV局に転職。記者として何をどう取材するべきか?理想と現実の狭間の中で、葛藤し続ける中村倫也の姿が印象に残た。心情を細やかに表現していて、とても良い俳優とも思った。ただ、抑えた演技ばかりで目立たず、俳優としては少々勿体無さも感じた。
そして、描写の比重の大きさもあり、答えを模索するTV記者の彼こそが、本映画の隠れ主人公にも思えた。そして彼は多分、表現したいものと、周りからの要求に過去悩んできただろう吉田監督の分身なのだろう。ただ彼の物語が厚くなりすぎて、主軸のはずの石原さとみファミリーの物語とのバランスが危うくなっていた感は否めなかった。
前作と2作品しか視聴していないが、吉田恵輔監督が脚本も含めて、心情変化描写に特徴有する特異な作家性を有し、その要素だけで映画を成立させる稀有の力量を有することは良く分かった。それだけに、その作家性と愛する娘が母親の元に帰ってくる様なハッピーエンド的物語設定、その両者が上手く併さった様な映画を、世界に向けて是非創って欲しかったとも感じた。それが難しいとしたら、せめてエンドロールで3人が映った家族写真を出すとか。
監督吉田恵輔、脚本吉田恵輔、製作井原多美 、菅井敦 、小林敏之 、高橋雅美 、古賀奏一郎、企画河村光庸、プロデューサー大瀧亮 、長井龍 、古賀奏一郎、アソシエイトプロデューサー行実良 、小楠雄士、撮影志田貴之、照明疋田淳、録音田中博信、装飾吉村昌悟、衣装篠塚奈美、ヘアメイク有路涼子、音響効果松浦大樹、VFXスーパーバイザー白石哲也、編集下田悠、音楽世武裕子、助監督松倉大夏、スクリプター増子さおり、キャスティング田端利江、題字赤松陽構造、制作担当本田幸宏。
出演
森下沙織里石原さとみ、森下豊青木崇高、土居圭吾森優作、美羽有田麗未、三谷杏小野花梨
小松和重、不破伸一郎細川岳、カトウシンスケ、駒井山本直寛、村岡柳憂怜、美保純、砂田裕樹中村倫也。
夫・豊は良かったですね
妻が喚き夫が鎮めようとする、これ夫婦あるあるだと思いました。
地元TV局記者との絡み、エピソードは、監督の分身なので厚くなった、というのは納得です。
共感ありがとうございます。
役所の場面では同じように思いました。力はなくなるように感じます。
ふとおもったのが、それが失禁であり、叫びは故意の誤報への怒りならば…より複雑な心境が表されたような気も。なぜ?からの勝手な想像ですが😌
重たい空気の撮影、入り込む役者さんたちはさぞかししんどかったでしょうね。いろいろ考えなければならない作品になりました。
共感ありがとうございます。
演者たちへの評価は仰る通り、納得出来ました。
エンディングについては賛否両論出ると思うのですが、今回この作り手は散々不快や悪意を掬い上げた所で終わり、観客を非常に消耗させたのは間違いないでしょう。