わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏のレビュー・感想・評価
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美術館を取り巻く情勢と担う人々の意識
わたしたち=国民
学芸員さんや専門家の皆さんは収蔵されている美術品は国民のものと言うことを深く理解してお仕事をしている。
つまり国民の国立西洋美術館ということ。
芸大がピアノを手放さざるを得なかったり、美術館が高騰する光熱費の補正予算を依頼したら蹴られてしまったり、予算が削られてクラウドファンディングをする国立科学博物館だったり。
新自由主義の名の元に文化教育予算がどんどん減らされている。足元の税収は過去最高なのに。
観光旅行みたいな研修には税金が出るのに国民の為の文化教育には予算が出ない。とても理不尽。
国会議員よりも学芸員さんの皆さんの方が余程国民の方を向いているんでは?と思った。
政治批判はここまでで、園庭から館内への移動の為に大怪我をしたような出で立ちになる『考える人』、日通社員みたいなカラーリングになったヘラクレスさん、ユーモラスでした。
梱包山移動を慎重に慎重をね重ねて行う日通やヤマト運輸、カトーレック、素敵でした。
美術館の裏を観たい人は是非観てほしい。
学芸員さんが描かれている
美術館映画で美術品を観てると寝ちゃうんだよね。
だから本作も寝るだろうと思ったの。でも国立西洋美術館だから観ないとね。
そしたら、寝なかった。面白いよ。
おなじみの常設展作品が出てくるから「この作品をスクリーンで観られるのいいな」と思って観てくの。
でも作品紹介はなくて、学芸員さんの紹介が中心になっていって、それが面白い。うまくインタビューをつなぐ技もいいの。
「企画展をどう作るか」というところで、元読売新聞の方も出てきてインタビューが続くんだけど、費用はほぼ全て新聞社・テレビ局がもつんだね。知らなかった。入場者数が増えて儲かっても、儲けは新聞社・テレビ局にいくっていう。
それで二人三脚でやるなかで「マティス展やろうぜ」ってやるんだけど、ヨーロッパの美術館が作品を貸してくれないの。なめられてんだよね、日本。それでも、なんとか、やりきって、ヨーロッパでも評価される展示になるの。「やってやったぜ!」って感じで「西美の学芸員は日本代表なんだ!」って気分になったな。
最後のほうで馬渕前館長が「かつての美術館は変わった人ばかりだった」って言うんだけど、この作品観てるとね「いや、あんたたちも十分変わってるよ」っていう気分なの。
その人たちが色々と考えてね、日本を代表して色々やってるの。
色んな美術館の展示をもっと観に行って応援しようと思ったよ。
芸術を維持するということ
2020年から2022年に掛けて行われた上野にある国立西洋美術館の大改修工事に密着したドキュメンタリー映画でした。7月に国立西洋美術館に行ったこともあり、どんな内容なのかと思って観に行きました。
元々国立西洋美術館の本館は、世界的な建築家であるル・コルビュジエの設計で1959年に建築されました。開業から60年以上の歳月を経た今回の改修工事は、老朽化した建物の防水処理をやり直すなど建築物を維持するという要請とともに、2016年に世界遺産に指定されたことに伴い、創建当時の姿に戻すという目的もあったそうです。外観も、従来あった入口付近の庭園がなくなり、前庭が広々としました。ただ個人的には、7月の炎天下に行ったので、庭園があった方が若干涼し気な感じがしたかなという気がしないでもありませんでした。
暑さ寒さはさておき、改修工事のために展示作品を一旦取り外して倉庫に移動させたり、この機会を利用して傷み具合を再確認したり、はたまた地方の美術館に貸し出しを行ったりと、美術館のスタッフたちは通常以上の業務を行っていました。特に「考える人」をはじめとする彫像は土台に固定してあるため、本体に損傷がないように取り外すのも一苦労。こうした作業は運送会社の専門スタッフや建設会社と連携しており(輸送系は主に日通とヤマト運輸が、建築は清水建設が担当していました)、美術館だけでなく、外部の熟練者の力も美術品の維持に必要ということがよく理解出来ました。
また日本の美術館の財政的な在り方が、世界的に見ても珍しい位置付けにあるということも初めて知りました。通常の常設展示は美術館が基本的に100%運営しているようですが、「ピカソ展」とか「バーンズコレクション展」と言った企画展は、主に新聞社やテレビ局などのメディアとコラボするのが一般的な姿だそうです。これは日本独自の様態だそうで、要は国立美術館ですら予算やスタッフの人数の少なさが原因で独自に企画展を開催することが難しいそうで、コラボ相手の企業の財力に頼らざるを得ないそうです。そのため、リスクは少ないもののリターンも少ないとか、企業側として収益を確実に得られる有名どころの企画展が中心になるため、知られぬアーティストの開拓が難しいなどといった問題もあるのだとか。
さらに予算上の問題は、企画展に限らず美術館運営の全般に渡る問題のようです。現館長の田中正之氏が、一旦外部に出向して、2021年に14年ぶりに当美術館に館長として復帰した時は、予算が半分程度になっていたとか。防衛費は倍増するけれども、文化活動に割ける予算はないようで、名実ともに日本という国の在り方が変わってきているのだと痛感せざるを得ない話でした。
先月報道されたところによれば、大阪府が所有する美術品が、きちんとした保管場所を確保する予算すらなかったようで、6年以上にもわたって地下駐車場に置かれたままになっていたとのこと。それに比べれば少ない予算で当美術館は最大限のパフォーマンスを発揮していると思いました。ただ数々のスキャンダルにもかかわらず、自民党に取って代わる勢いがあるのは第2自民党を自認する維新の会。その本拠地である大阪における美術品の取り扱いを見ると、万一維新が政権を取るようなことがあれば、当美術館をはじめとする国立(実際は独立行政法人だけど)美術館の運命も結構ヤバいことになるんだろうなと、悲観的な思いがよぎったところでした。
そんな訳で、文化国家の象徴とも言うべき美術館の運営が、いかに風前の灯火にあるのかが切々と伝わってきた、非常に有意義なドキュメンタリー映画でしたので、評価は★3.5とします。
プロフェッショナル 匠の技
上野の森にある国立西洋美術館の、ル・コルビジェによる設計当初の姿に戻すリニューアル工事に密着したドキュメンタリー。
美術館の学芸員はもちろんだが、工事前後の引越し作業に携わる運送業者や工事業者による匠の技にも魅せられる。
国立西洋美術館のキュレーターの皆さんの収蔵品に対する深い造詣と愛には圧倒させられる。そしてとにかく皆さん、キャラが濃い。
特に今回の映画撮影に中心となって協力されている若い男性キュレーターの方のファッショニスタぶりが隠れた見どころ。
本作では国立西洋美術館の楽しいところ美しいところばかりではなく、独立行政法人として昨今は採算性が求められる故の厳しさ難しさにもスポットが当てられている。
いろいろと考えさせられるが、我々に出来るのはささやかではあるが、まずは美術館に足を運ぶことで応援することからだろうか。
学芸員はふだん何しているの?
思っていたよりも現実的でした
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