「キャッチコピーが人間の本質、圧倒的な鳥山明の力」SAND LAND ハッカ飴1/2さんの映画レビュー(感想・評価)
キャッチコピーが人間の本質、圧倒的な鳥山明の力
「ドラゴンボール」や「Dr.スランプアラレちゃん」で世界的に有名な鳥山明氏の全1巻の短期集中連載作。原作は読んでおらず、映画だけ観たのだがそれでも世界観の設定やメカデザイン、キャラクター造形など魅力的で物凄く楽しめた(SNSで水利権を貪る王とそんな暗君を裏で操るゼウ大将軍、水不足に苦しむサンドランドの人間と魔物達の関係性を無粋な例えをする者も一部いたが)。お気に入りのキャラはスイマーズとアレ将軍。前者はパパの人物像と杉田智和氏の名演技が最高に光っていた。というか息子のパイクとシャークの身体能力が半端ない。この家族、先祖が魔物と交わっていたのではなかろうか。アレ将軍は最初こそいけすかない感じではあったものの、ベルゼブブに対する人間側の主人公ラオの正体が救国の英雄シバ将軍であると知った際の「私は"伝説"と戦うのだ…!」と興奮していた辺りでいい人かもと思い、実際そうであった。きっとゼウに代わり立派な大将軍となるだろう。
さて今作のキャッチコピーはベルゼブブのセリフ「悪魔よりワルだなんて許されると思うか?」という文句。これは人間がこの世で最も恐ろしい巨悪であるというデビルマンやゲゲゲの鬼太郎、有栖川有栖氏の作品などなど長きに渡り語られてきたテーマに冷や水をかけるものであり、それを代表するのが冷酷なゼウ大将軍である(飛田展男氏の悪役演技がまた素晴らしい)。61歳のラオ(シバ)に「まだ生きていたのか…!」と言わしめるほど物語の鍵のひとつとなる30年前の事件当時からかなりの高齢であったと伺える。Wikipedia曰くサイボーグらしいが年齢や見た目的に嘗てポリオ患者などに使われた人工呼吸器「鉄の肺」に入っているように見えてしまう。この大将軍が国王の補佐をしていることや宰相らしき存在が確認できないのを見るにサンドランドは傀儡の王を建てた軍事政権なのではないかと考察してしまう(それなら国王が無能なのも納得)。その国王も最初テレビで水を高額で売っておきながらエンドクレジットでしれっと「無料の水」としているのも気になった。ラオは全ての秘密を公表すると言ったがなんやかんやで取引して別のシナリオを用意したのだろうか、命の要である水を王が独占していたとなれば革命が起こって王族が処刑されてもおかしくないはずだ。
こんなに色々考えてしまうのはそれだけ鳥山明氏の世界観構築が優れているということ、とても楽しい作品であった。
最後に「終わるの早〜い!」と言っていた少年。それは君がこの映画をそれくらい楽しんでいたということだ。その感覚を忘れないでほしい。