「名もなきものたちの声をきけ」はたらく細胞 Immanuelさんの映画レビュー(感想・評価)
名もなきものたちの声をきけ
体内の細胞を擬人化するというありそうでなかった斬新な設定の漫画の実写化です。基本的には原作のままの部分とオリジナルストーリーを混ぜたスタイル。原作は「体内の細胞の擬人化」という素晴らしいアイデアの漫画です。
しかしながら「擬人化」には危うさもあります。擬人化された対象が、あたかも人であるかのように思ってしまうことです。鳥獣戯画のカエルとウサギのように、現実ではカエルとウサギは相撲を取ったりはしないのです。
体内細胞はシステマチックに協調して人が生きていくために絶えず働いているわけですが、そこに体内細胞の意思や感情や信条があるわけではありません。作中で描かれているように、誇りを持って働いているわけではないし、劣等感で悩んだり、自分の「仕事」に誇りを持って仕事をしているわけではありません。プログラミングされたままに、マシーンのように各個の機能で動いているにすぎません。
しかしそこであえて擬人化するところに面白さがあることも確かです。単なる体の組織を構成する部品であるにすぎない細胞が、もし意思や感情を持っていたら。そしてその部品が絶えず生成・消滅を繰り返し、人の体を生かすためのみに働いているとしたら・・・。そういうふうに想像すると不思議と、人が自分が生きていることがいかに奇跡であるのか、人はひとりぼっちで生きているのではないと思える。そこに面白さがあります。
個人的には白血球が細菌と戦う場面よりも、冒頭と最後に大量の細胞たちが仕事をして体内を行き交っているのを俯瞰する絵がグッときました。ああそうだよな、自分の体内でも沢山の数えきれない細胞たちが頑張っていると思うと、僕も頑張って生きないといけないと思いました。
漫画や小説などの実写化は得てして不評になりがちです。どんなに製作者が頑張って作ろうとも、原作ファンにとってはすでに自分の脳内で自分なりのイメージを造っていますから、どうしても自分のイメージと映画の違いが気になってしまうからだと思います。そこでいうと本作は、特に原作をかなり忠実に再現していると思いました。そういう意味では原作ファンにとっても納得できるものであると思います。
ただ、芦田愛菜さんと阿部サダヲさんなどによる現実世界のパートが追加されていますが、そこは個人的には無くても良かったかなと思いました。(もちろん芦田愛菜さんと阿部サダヲさんの卓越した演技力は素晴らしく、楽しませていただきました)そこはちょっと「いい話」にしようとして走りすぎてしまったかなとも思います。
前半の原作準拠の感じを最後まで続けて、ドタバタの楽しい映画で終わっても良かったかと思います。それから、原作も割とスプラッタ要素がある漫画でしたからそれは原作準拠かもしれませんが、小さいお子さんが見るにはストーリー展開およびスプラッタ要素(そして少しエロ要素)が合わないかもと思いました。ぜひ小さいお子さんたちのみなさんにも、体内の細胞たちの頑張りを見て欲しいと思いましたので、そこが少し惜しい気がします。
無理に「いい話」にしなくても、無数の色々な体内細胞たちが必死に仕事をしているところを見るだけでも、十分に生命の大事さは伝わるし、大切に生きていこうという気持ちになると思います。しかし、そこを差し引いても原作の力によるところも大きいですが、十分楽しめました。
Thank's, all Cast and Staff ! :‑D