「極めひと・白石和彌の“新たなる代表作“」碁盤斬り 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
極めひと・白石和彌の“新たなる代表作“
ラストに向かい潮のような感動が堰を超えて押し寄せて来る。
そんな稀有な体験をした。
時代劇を初監督した白石和彌。
やはり只者ではない。
初時代劇でも到達した頂きは高く、
望むか望まぬか知らぬが高みを極めてしまう孤高の人である。
主役を演じる草彅剛の貧乏長屋の浪人・柳田各乃進。
この映画の原作は古典落語の人情劇だという。
その格乃進だが、
はじめ、中盤、そしてラスト、
顔も表情も佇まいも一変する草彅剛。
世を拗ねた貧乏浪人が、自分を嵌め、妻を死に追いやった男
・・・つまり宿敵・柴田兵庫(斎藤工)を各地の祭りで賭け碁を
する宿場を訪ね歩く。
各乃進は無精髭がボウボウと伸び、眼は落ち窪み、
復讐の篝火に荒む姿は鬼・・・三船の用心棒・・・黒澤明の世界にも
足を踏み入れる。
また一方で各乃進は囲碁を通して懇意になった質屋の店主・
萬屋源兵衛(國村隼)の碁の師匠であり、思われ人となる。
しかしとんでもないとばっちりから、50両を盗んだ嫌疑を
掛けられてしまうのだ。
金に窮した娘のお絹(清原伽耶)は自分の身体をかたに、
女郎屋の女将(小泉今日子)の店の手伝い女になるのだ。
ここでややこしい話しを単純明晰にする脚本。
3年を費やした脚本の加藤正人の無駄のない引き締まった仕事。
この映画の主人公・柳田各乃進は囲碁と同じに白と黒を
ハッキリと付けるのを好む。
曲がったことが嫌いで妥協をしない。
その性格は軋轢をもまた産むのだ。
各乃進は祭りや人の集まる場所で開かれる碁会所を兵庫めあてで訪ね歩く。
身長184センチの偉丈夫・斎藤工に対して、
身長170センチの草彅剛は如何にもみすぼらしい。
しかし偉丈夫・柴田兵庫を遥かに超える大音声と熱量を
草彅は秘めていたのだ。
白石和彌の熱量。
草彅剛の熱量。
首を介錯するシーンのリアル。
題名の「碁盤斬り」その文字通りの意味するシーン。
そのシーンの凄みある美しさ。
この映画は正義を通して復讐を果たしても、
飽き足らぬもの。
復讐を果たした男は「用心棒」の桑畑三十郎のように、
安住の地を去っていくのだ。
琥珀糖さん、コメントありがとうございました。
白石和彌監督は「凶悪」で知ったのですが、この作品は凄いと思いました。その後も「孤狼の血」や「彼女がその名を知らない鳥たち」でズドンと撃ち抜かれ、完全に虜になった次第です。ここ最近はそこまで撃ち抜かれてはいないのですが、ネトフリの「極悪女王」はまずまず良かったですね。今度の新作も期待したいところです!またアリ・アスター監督の「ミッドサマー」も全体的な評価は高くないものの、あの不気味な世界観が個人的にはかなりツボでした。
観る映画を決める際に、琥珀糖さんのレビューも実はかなり参考にしています。そんな僕のためにも(笑)今後ともよろしくお願い致します!
おはようございます。
コメントありがとうございます。
あまり褒めないでください。調子に乗ってしまいます。
でも作り手の思いを読みとく面白さに惹かれています。
勘違いも多いと思いますが…
おはようございます。
コメントありがとうございます。(不都合な記憶)
なるほど~ そういった裏事情というのがあるのですね。
実際私はあの作品を力んで解釈しようと努めました。
だから少し歪曲したような妄想となりましたが、現実を鑑みれば琥珀糖さんのおっしゃるとおり、事情があったと解する方が自然ですね。
成否でいえば、そちらの方が正解でしょう。
いつもありがとうございます。
「不都合な記憶」のコメントありがとうございます。
この作品はどこかで見たことのある物語を合わせたような作品だと思って見ていました。
ただどうにも変なのが登場人物の少なさです。
この物語を広範囲に捉えて考えたところ、これはもしかしたらAIによるシミュレーションなのかなと思ってしまいました。
サイトウナオキという人物の再犯の可能性を、過去のバックアップデータから読み取って、コンピュータ上でシミュレーションしているように思いました。
シミュレーションは「そこ」で終了しますが、その後は司法による判決になるのでしょう。
完全なる妄想ですが。
いかにもそんな役柄が似合いそうだったのに、見たらガッカリのケースはよくありますが、草彅剛は「怒れる武士」がよく似合ってましたね。復讐の篝火に燃える、やつれ顔が迫力でした。
そしておっしゃる通り、白と黒はまた軋轢を産んでしまうのですね。
コメントありがとうです。
おっしゃる通りで、どんな物が出てくるのかと興味津々でしたが、僕にはドストライクな作品でした。
格之進を通して描く「侍」の造詣が凄くハマってて…生温い時代劇とは一線を画す仕上がりになってたように思えました。
人と人との「心意気」のキャッチボールはとてもよかったのですが、現代人の私にはいろいろと違和感がある映画でした。
「椿三十郎」のラストとは、ちょっと違うのでは、と思いました。
共感ありがとうございます。琥珀糖さんのレビューに全く同感です。囲碁を通して質屋の旦那が嘘偽りのないスタンスに感化されてしまうのにジーンときました。監督、脚本、照明、カメラ、小道具、殺陣の全てが良くて感心しました。
「ラストに向かい潮のような感動が堰を超えて押し寄せて来る。
そんな稀有な体験をした。」を見て鑑賞しました。
私の感想はそれとは正反対で完全な時間の無駄でした。