「アメリカ人のツボ? 全米でバズったラリックマ遂に上陸」コカイン・ベア ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカ人のツボ? 全米でバズったラリックマ遂に上陸
たまに見たくなる、何も考えなくていいお気楽映画、いわゆるポップコーンムービー。集中力がいらないから疲れないし、大きな期待を持たないからがっかりもしない。映画館に足を運んでそういう作品に90分を捧げる、なんと平和で贅沢なひとときだろう。
冒頭、アメリカグマへの対処法についてのウィキペディア情報(つまりテキトーということ)にうすら笑い。ノリノリで踊る密売人がヘリからコカインをばらまき、自分もパラシュート降下しようとしてけつまづいて落ちる。そのコカインを摂取したらしいクマが(ここまでが実話なんだよ、というのが本作最大の「引き」だろう)、次々と人を襲うことになる。
実話ではコカインを食らったクマは人を襲わず死んでいたが、本作のクマはそのリベンジを果たすかのように人間を屠りまくる。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(クマ目線)ぽいと言えなくもない。ような気もする。かすかに。
最初に登場したラブラブカップルの、いかにもホラー映画で最初に死にます的なベタすぎるオーラと、「カメラを止めるな」前半並みに雑に飛んでくるちぎれた足。個人的にはこの描写にかなりわくわくした。
その後、行方不明のコカインを探すギャング、その動向を追って来た警官、たまたま森に遊びに来てしまった子供、森でコカインを拾った半グレ(?)グループ、森林公園のレンジャーと管理官など、まあまあ多めのキャラクターたちが登場する。
彼らが森の中で互いに遭遇して絡みつつ、クマと出会っては逃げたりやられたりするのだが、それぞれの見せ場みたいなものが結構ちゃんと割り振られていて、性格不明のモブ状態になる人物がいない。感情移入するまでには至らないものの、意外と(この手の映画にしては)キャラの扱いが丁寧なのだ。
それと、ちょっと驚いたのはCGグマのクオリティの高さだ。
確かに、今時ジャンルを問わなければこれより遥かに超絶品質のCGをほどこした映画はたくさんある。だが、本作は別にCGが売りではないし、見た感じどちらかというと低予算B級映画という印象なので、ちゃんとクマの体重を感じさせるCGに作り手の頑張りを感じた。公式サイトを見たところ、モーションキャプチャーで動きを作ったようだ。あれだけクマっぽい動きができるモーションキャプチャーの中の人もなかなかすごい。
一方、ちょっと突き放して評価するなら、コメディ&ホラーくらいのジャンルと思われる本作、コメディもホラーも両方パワー不足という印象だった。コメディは、アメリカ人にしか分からないニュアンスがあるかもしれないのであまり断定的に評価したくはないが、ホラーの方は見せ方がお決まりな感じで、ほとんど怖くない。
それでも個人的にはそこまで引っくるめて作品の空気感には好意的なのだが、これがアカデミー賞授賞式に着ぐるみが出てくるほど全米でバズった話題作ですよ、と言われると、「なんで……?」と言いたくなるのが正直なところ。やはり何か、アメリカ人にしか分からないツボがあるに違いない。
しかしレイ・リオッタはこの、クマに内臓食いちぎられて死ぬお気楽映画が遺作とは……
いや、プロの仕事に対して、そんな外野の感傷は余計なお世話というものだろう。