儀式のレビュー・感想・評価
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中ばかり見ずに、もっと外に目を向けたら?
祖父、一臣。軍国日本の内務官僚であり、一時公職追放の憂き目を見るが復帰し、政財界に顔の利く大立て者。本妻しづとの間に韓一郎、兄嫁ちよとの間に守、韓一郎の許嫁との間に輝道、その他、勇、進、節子ら多くの母違いの子を残す(それはいいとして、当主がきちんと跡取りを育成しないのはどうなのでしょうか?)
父、韓一郎。許嫁は父に奪われ、異母妹の節子との仲も父に壊された。仕方なく結婚した母と僕と弟の3人を満州に置き去りにして一人東京へ戻り、敗戦に絶望して勝手に自殺(そんなダメ男、います?)。
父の異母妹である節子。一臣、韓一郎、輝道、僕の男達4人の欲望を一身に集める魔性系の女性。監督の妻である小山明子が演じている。不審死を遂げ、僕は一臣が殺したと思うけど、その理由も動機も不明。
輝道君(孫1)。実は孫ではなく、祖父一臣が父韓一郎の許嫁に手を付けできた子であることが明らかに。一臣にとっては末の子、韓一郎にとっては弟。節子も律子も手に入れる。桜田家の血を絶やすために自殺する(他にも血縁者はいるので血は絶えないはずですけど?)
僕、満州男(孫2)。次期当主の自覚はまるでなく、野球と女にうつつを抜かす若者。父の異母妹である節子、その娘律子、好きになった二人の女性どちらも手に入れられず悶々(もてない男の鬱屈は映画監督となり女優の妻を手に入れて克服すべし)。
律子(孫3)。節子の娘。皮肉屋。輝道君の後を追いかけ服毒自殺。
忠(孫4)。中国からの引き上げものである父と断絶、警官となり日本の改造を夢見るも事故死。
本作は、家父長制の肝である「存続」「家督を譲る」という主題に全く言及しない。本妻の孫である満州男が一臣の葬儀の喪主を務めているから次期当主なのだろうが、頼りない。「家」「墓」「田畑」は日本人が代々守り抜いてきた基本的な価値観だが、先祖にも墓にも全く言及しない。そもそも絶対的君主のように描かれている祖父一臣でさえ、本来は「家」の従属物でしかない、と描かれるべきなのに。構図としては、一臣を先祖たちが見下ろしているはずなのに。そもそも本作が描いているのは「祖父一臣 vs 4人の孫たち」という特殊な家族の物語であって、「家父長制」や「家」は全然描かれていない。物理的な家があるだけ。眉毛のない面相で人物を異形の顔貌に仕立てる独特のメークやライティング、武満徹の不協和音のような不気味な音楽、重厚な美術はアート映画として興味を引くが、肝腎の中身が面白くない。 名家桜田家という設定の閉鎖環境の中で描かれる近親相姦的家族関係が、「戦後25年を総括する」「日本の戦後史の総括」「戦後民主主義を総括」とはこれいかに。「家父長制度の中で生きることを強いられた若者たちの苦悩を描く」「個人が家に組み込まれ支配されるさまを、冠婚葬祭の儀式になぞらえて描き出す」「近代日本国家の縮図というべき、強権的な家父長制度に支配された一族の忌まわしい歴史を批判的に描いた」「強権的で旧態依然とした家父長制度に支配された桜田家なる一族の歴史を、日本国家の近代の歩みと重ね合わせながら象徴的に描き出した」「日本の伝統そのものである冠婚葬祭の儀式を通して、戦後の日本人の情念の歴史をつかみだした」「この一族を包んで流れていった歳月のなかに、混迷と動乱に満ちた昭和の時代と日本人の心情をさぐろうとするもの」あちこちに残された本作の惹句は壮大で凄まじいが、実際に描かれているのはそんな大層なものではなく、監督のナイーブで暗くて鬱屈した内面世界。それに付き合ってくれた70年代は優しい世界だった。そんな情念も観念も、脳天気で軽薄な80年代がきれいに洗い流してくれたw。
思想の左右や時に関わらずイエ制度が今もなお支配している現代日本の現実を突きつける
肉親の突然の事故死など飼育と一部、ストーリーに類似性が有る。映画製作者の個人史を民族史にドッキングしたということか。何故、佐藤慶演ずる桜田一臣、家長は小山明子演ずる息子の意中の人兼かつての自分の愛人を殺したのか等、良く分からないところが少なからず存在する。息子の遺言書を隠し持っていた罰ということ?
戦争を潜り抜けた4名の子供達の歩みが、日本の戦後の歩みの象徴ということは、どうやら理解できた。野球を愛するアメリカ民主主義かぶれに、書物に浸る体制批判的な志士、クーデターを夢見る右翼警官に、男達に振り回される皮肉屋娘、戦後に生きる人間だから何か新しいはずだが、上の世代(共産党員や中国長期抑留員も含む)、さらにその上の世代(戦犯含む)と変わらず相変わらずイエ制度にがんじがらみにされてしまっている。実質よりもかたちに重きを置く儀式が今も昔も変わらない様に、悲しい程変わっていない戦後日本人の姿、これを突きつける、糾弾する。今だからこそ一層、日本の歩みの本質、土着性・非発展性を訴えかけ、絶望感といった胸に迫るものを感じた。
ただ、子供時代に戻った様な球が空を飛んでいく最後のシーンは、何だろうか?死をもってイエを終わらせようとした中村敦夫による立花輝道とそれに殉じた賀来敦子による桜田律子、彼らの死が新しい民主主義への希望を産んだのだろうか?
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