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「天野監督のサイコパスっぷりを楽しもう!」わたしの魔境 よんしんさんの映画レビュー(感想・評価)
天野監督のサイコパスっぷりを楽しもう!
たまたま見てしまった天野友二朗監督のデビュー作の「自由を手にするその日まで」てのが近年稀に見る強烈さだったもんで、勢いで本作まで観てしまった。
まず映像はちゃんとプロに任せてあるので美しく見やすい作りになっています。
役者さんもちゃんとプロの方を使っていて安心です。
ただ最初のブラック企業パートが胡散臭い。この人手不足の時代に面接で「10人採っても8人は辞める」とか笑いながら豪語する会社がどこにあんのよ。しかもアプリを使ってネズミ講をするわけのわからない会社。んで先輩がアパート押しかけて「楽しませてやるからさ」とか言って突然レイプするとか。それでも警察にも労基にも相談せずその会社に居続ける、という相変わらず脚本も書いてる監督のサイコパスっぷりが発揮されます。
天野監督という方は医療系の大学院まで進み、一応社会経験もあるらしいけど、このまったくの現実味のなさに振り切れてるところがスゴイ!
ところがオウムを模した宗教パートに入ってくるとそれまでの嘘っぽさが気にならなくなってくる。特にグル?さんの語りが上手くとてもリアル。あー、これオウムのほぼほぼ再現映像なんだ!とわかれば俄然面白くなってくる。
この中間の宗教パート、非常に面白い。天野監督ゴメンナサイと思いながら観てました。
オウムの再現ドラマって結構あるけれど、これがいちばん良く出来てるかも。
単なる怪しい団体として描くんでなく、メンバー達はそれなりに救いを感じて集まっていたところに、だんだん歯車が狂っていく、ってのが丁寧に描かれています。
ところどころにオウムに関わった人たちのインタビューが何度も挟まるんだけど、仏教の坊さんがオウムのことを語りだしたあとに、坊さんにレイプされたという元オウム信者のインタビューを出し、よく聞いていると出てくる人々がお互いに相手を批評し合いながらインタビューが進むというこれまた監督のサイコっぷりが爆発。
元オウムの人たちは今もどっぷり各自なりの信仰を持っていて、もう結局誰の言葉も信じられなくさせてくれます。
と、序盤を抜けさえすれば途中から面白さが加速するんだけど、主人公に対しグルが「家族にトラウマがある」と物語のポイントっぽく語るところがあり、なんかそれが物語の山場につながるのかな〜?なんて思ってたら、お父さんはただの娘思いのいい人で、最後はまた中学生が書いたみたいなシナリオであっけなく終わってしまい、思わずビックリして叫んでしまった。
とまあ、天野監督のサイコパスで厨二病っぷりが存分に楽しめる作品になっているんじゃないかと思います。
たぶん、天野監督という人は一般人の発想や感覚は持ち合わせてない方なんだと思います。
コンビニに入ってすぐ買い物カゴとって、カップラーメン1個だけ買って正座して食べる、っていう描写だけ見ても、常人離れっぷりが伺えます。
こういう、下積みなく独学で映画作りを始めた監督がこれからどんな奇作を生み出してくれるか本当に楽しみです!