劇場公開日 2023年4月21日

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「“執拗に”迫られたプーチンの本音」プーチンより愛を込めて regencyさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0“執拗に”迫られたプーチンの本音

2023年5月8日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

単純

ロシア連邦大統領ウラジーミル・プーチンの素顔に迫ったドキュメンタリーとなっているが、密着したのは2000年から翌年までで、完成したのは2018年。監督は、当時大統領候補だったプーチンの選挙用PR動画の撮影を担当した人物で、本作はその映像をベースに作られている。
現在の視点で本作を観ると、なぜプーチンがウクライナ侵攻をしたのかが遠回しに見えてくる。「若さや過去は戻らないが、生活が昔より悪くならないように良くする事はできる」。ここで言う「昔」とは旧ソ連時代ではない。それは、続けて「国民の大半はソ連時代を懐かしく思っている」と言い切っている点でも明らか。大統領になった事で彼は懐古主義を現実にしていったのか。
一方で、プーチンを任命したエリツィン前大統領にも触れているが、テレビに映ったゴルバチョフ元大統領を見るのを拒んだり、大統領に当選したプーチンにお祝いの電話をかけ、折り返しの電話を待ち続ける彼の素顔に“執拗に”迫っているのも興味深い。
この“執拗に”というのはドキュメンタリー映画の定石。冒頭での嫌がる妻や娘にカメラを“執拗に”向けたように(成り行き上とはいえ、さすがに入浴中の娘に迫るのには驚いたが)、終盤で監督は政策への不満をやんわりとながらも、プーチンに“執拗に”ぶつけていく。
ドキュメンタリー作家は被写体の信頼を得る必要があるが、被写体の本音を引き出すには“執拗に”ならざるを得ない時もあり、そうなると途端に不信を与えてしまう。
“執拗に”迫った挙句、ロシアから逮捕状を出された監督。皮肉混じりに『プーチンより愛を込めて』という邦題を付けたのだろうが、やっぱりここは監督を指す原題『プーチンの証人』がしっくりくる。

regency