プーチンより愛を込めて : 映画評論・批評
2023年4月18日更新
2023年4月21日より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかにてロードショー
「プーチン帝国の誕生」を記録した重要作品。ChatGPTに邦題の別案も考えてもらいます
本作は2018年の製作ですが、実際にカメラが回っていたのは1999年~2000年あたりです。これが、ウクライナ侵攻が行われている今の時代に見ると、実に感慨深い。今日まで20年以上にわたるプーチン政権は、そもそもどうやって誕生したのか、その背景が実に分かりやすく描かれています。
ゴルバチョフがペレストロイカを始めたのが1985年、チェルノブイリの原発事故が1986年、ベルリンの壁崩壊が1989年、ソ連が解体され、エリツィン率いるロシア連邦が台頭したのが1991年です。
そしてこの映画に描かれる、1999年大晦日のエリツィン辞任とプーチン大統領代行の発表。翌年3月に大統領選挙が行われることになっていましたが、実質的にはエリツィンが自身の後継者としてプーチンを指名した格好です。
本作の監督、ビタリー・マンスキーによれば、「プーチンがエリツィンの後釜として大統領になることは、秘密裏に準備されていた」「国民はそんなことなど予想もできず、受け入れられない人たちも多数いた」そして、その大統領指名の目撃者となった上、その事実を許容してしまったロシア国民の責任の一環として、この映画を作ったといいます。プーチン大統領を誕生させてしまった罪の意識をもって映画を作り、真実を世界に突きつけたと。ちなみにマンスキー監督は、2014年にラトビアに移住したので、この映画を作ったことによる粛清は受けていないとのこと。
それにしても「プーチンより愛を込めて」という邦題には違和感を覚えました。ちょっと軽すぎませんか? 007の「ロシアより愛をこめて」のオマージュですよね。
じゃあ、自分ならどういう邦題をつけるかしばらく考えて、今話題のChatGPTに聞いてみました。映画.comの作品解説文を丸っと放り込んで、「この映画の邦題を考えてください」ってやってみた。
「プーチン 大統領の素顔」
まあ、普通です。「邦題案、女性にもアピールするものをあと2つお願いします」とリクエスト。
「プーチンの謎に迫る - ウラジーミル・プーチン、大統領の素顔 - 」
「権力を手にした男 - ロシア大統領ウラジーミル・プーチンの野望 - 」
凡庸ですよね。小さいダッシュが副題の前後に入っているところに芸の細かさを感じますが、よく見かける邦題って感じ。あまりインパクトはありません。
個人的にはこの映画で、かつてのソ連国歌をロシア国歌に復活採用するシークエンスがなかなか胸を打ちました。プーチンの旧ソ連への「愛」が詰まったエピソードではないかと。実際、私も何度かロシアを旅した経験がありますが、「ソ連時代は良かったよ」と話すシニアの方はけっこう多い。
と考えると、案外この邦題「プーチンより愛を込めて」は悪くないなと考え直しています。ソ連時代への愛、ということですね。
(駒井尚文)