劇場公開日 2024年10月11日

「見る価値がある続編。酷評されるほどでは全くない。」ジョーカー フォリ・ア・ドゥ ザ・アナキストさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5見る価値がある続編。酷評されるほどでは全くない。

2024年10月11日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

DC物である必要は全く無いがアーサー・フレックの物語を追っていた人ならこの映画は見る価値がある。私は最初からアーサーの物語にしか興味がなかったので個人的にはこれで正解。
ミュージカルとしての出来も全然悪くない。音楽好きであればあるほど楽しめる映画です。「ジョーカー」がタップダンスするシーン(ホアキンが実際に踊っているがなかなかキレがあって素晴らしい)やアーサーとリーが踊り出すシーンは動きも派手で最高。それからインタビューで知りましたが実際に撮影しながら歌った生歌を使っているらしいのでミュージカルとしてもかなり真面目にやってます。ホアキン・フェニックスはワザと不器用に歌ってる。でもかつてジョニー・キャッシュを演じた経験があるのでやっぱり歌は上手いです。世界の歌姫レディー・ガガは圧倒的で技術的なことは彼女の歌が全てカバーしてくれます。ヒドュル・グドナドッティルのスコアは今回も美しくてダークです。ニック・ケイヴがカバーしたバート・バカラックの名曲もCMや本編冒頭のアニメで使われていたけどこの辺りも素晴らしいです。
このジョーカーシリーズは良い曲を発掘できる毎回選曲が素晴らしい映画。例えば前作の「JOKER」では哀しい運命を辿ったシンガーソングライターのジャクソン・フランクの隠れた名曲「my name is carnival」が使用されていました。今回も「ジョーカー」が裁判所でブチギレる盛り上がりの場面で「The Joker」という60年代のブロードウェイ物の曲が使われていました。Bobby Rydellという歌手が歌ったバージョンに近いけれど今時知ってる人は少ないと思われるこの曲をよく見つけてきたなと感心しました。歌詞も映画にぴったりで泣けます。ジョーカーとなったアーサーの心境を表す極めて重要な場面に登場してミュージカルに詳しい私としてはめちゃくちゃ嬉しかった。
音楽の要素が無ければダメなぐらいダークなトーンで進んでいく映画なので今回ミュージカルで良かったと思った。これから歌を抜いてしまったら本当に救いが無くなってしまう。
アクションの見せ場というものは特に無いし全体的にドラマ仕立てです。意図的にそうなっているから派手なアクションには期待しないように。
殺人を犯して囚われの身となったアーサーが裁判にかけられて裁かれるというのが大体の話の流れです。そこで次々と明かされるアーサーの哀しいバックグラウンド、そして証言するかつての知り合いや友達。。。自分の犯した罪と向き合うことになったアーサー。アーサーは明らかに知能障害も精神障害もありますが誰もがそこを無視していきます。。。中にはいち早くアーサーの知能障害に気づきそれを利用しようとする人まで。。。果たしてアーサーは自分を本当に気遣ってくれる人々に気づくことができるのでしょうか?

この映画最初から最後までめちゃくちゃ暗いです。「衝撃的なエンディング」よりも最後の裁判でのシーンの方が刺さります。アーサーがマイクを握ってある決心をするシーンに思わず涙する人もいるのではないでしょうか。そのシーンがこの映画が現在受けている評価にも重なっていて切ないです。しかしこのシーンがアーサーが見せる「本当の強さ」であり、「最後の悪意に対する抵抗」です。見逃せないラスト10分。

トッド・フィリップス監督がやりたかったことは前作への回答とかではなく、「アーサー・フレック」を最後まで丁寧に描きたかったんだろう。皮肉なことに「ジョーカー」を求める世の中からは完全に叩かれる結果となってしまった。だけどこれで良いと思う。

私はこの映画を「前作に対する落とし前をつける映画だ」という解釈には同意しません。

弱者は大人しく恵まれない環境や運命を受け入れて道を踏み外すなというメッセージになってしまうから。そういう解釈をする人が大量に現れていることも非常に残念に思います。よく見てください。アーサーは人間扱いを受けたいのです。人間になりたい、人間を知りたい、愛されることを知りたい、これがアーサーの強い願望です。人を笑わせたい、幸せにしたい、コメディアンになりたかっただけなのに気づいたら怪物になってしまっていた。。。そんなアーサー・フレックの身に次から次へと降りかかる悲しみの連鎖に浸ることがこのシリーズの正しい楽しみ方です。ゴッサムシティで虐げられることに耐えきれずに犯罪者となったアーサー・フレックというアイデンティティに苦しむキャラクターを知ろうとせずに犯罪者だから虐められて当然と解釈するだけでは何の学びも無い。それでは新たなジョーカーが現実世界に生まれていくだけです。

アーサーは「誰からも求められていない」のだから。

前作があまりに社会現象となってしまった為にトッド・フィリップス監督も世間の目を気にしなければならないところもあったでしょう。
でも監督が前作と真逆にすれば丸く収まると誤ったメッセージを最後残す為にわざわざこの映画を作ったとは思わない。ジョーカーを英雄視する人向けに作ったとかどれだけ限られた人向けに作ってるんだ?って話ですよ。トッド・フィリップスはもっと優しい監督ですよ?
この映画を見て「自分もジョーカーかもしれないと勘違いしてる奴らに冷や水をw」みたいに言ってる人達は無視しましょう。心を病んだアーサーが様々な形で世間に消費されるとみる方がよっぽど納得できる作りになっています。アーサーは虐める側には決してなれなくても世間に対する怒りは最後まで捨てた訳ではないのです。解釈の仕方は人それぞれだと思うけど見下すような態度で見るか自分より弱き立場の人々に対する優しい眼差しで見るかで全く意味が変わる映画です。

監督はちゃんと映画のラストに毎日希望もなく精神ギリギリの状態を生きる全ての人へのメッセージを用意しています。これは不幸で何者にもなれずに苦しむアーサーというキャラの願いでもあるし真に苦しい思いをしながら日々を繋いでいる、「虐める側には絶対なれなかった」全ての弱き者への監督、そしてホアキンからのメッセージです。決して「道を踏み外したらこうなるからな!」というような上から目線の説教とかではありません。エンドロールの最後まで是非見てください。

前作とまでは行かなくても物語もちゃんとしてて編集も良くできてます。ジャンルが少し変わっただけでクオリティは全然落ちてません。求めていた物と違うから感情的になりすぎて低評価にしてる人が多い気がします。酷評されるほど出来の悪いものでは無いです。見る価値は十分にありますよ。

【追加】
2回目見て気になったラストのシーン。
「衝撃的なラスト」シーンで奥に映る人物に是非注目してみてください!

【追加 10月15日】
沢山のイイネありがとうございます。皆さんとこの映画の良さを分かち合えることを幸運に思います。

ザ・アナキスト
boratkazuさんのコメント
2024年10月19日

ザ・アナキストさん
とても深い分析と楽曲の説明、ありがとうございました。
僕も今回も前作に負けない内容だと思いました。

boratkazu
ザ・アナキストさんのコメント
2024年10月17日

倒れ込んだアーサーの奥にぼやけて映ってる人が何かやってます。この映画かなりぼやけた場面で色々起きてます。アーサーが最初にリーと出会って話をする場面でもずっと奥の方で監視されていたのに気付きましたがかなり気持ち悪かったです。笑

ザ・アナキスト
iwaozさんのコメント
2024年10月17日

本当に名曲、名唱揃いですよね!
個人的に傑作だと思います。
1作目はダーク過ぎて、なんだかな
と思いましたが、ミュージカル仕立てにすることで、ジョーカーというキャラとマッチしまくり!^ ^
自分的には、1作目はこの2作目の為にあったと思いましたf^_^;
音楽がメインなので、DolbyATMOSで観てほしい作品です!!
ナイスレビューありがとうございます!m(_ _)m奥に映る人物、わかりませんでした(><)教えて下さい!

iwaoz
Qooさんのコメント
2024年10月15日

奥に映る人物 分かりませんでした(´×ω×`)とても気になります

Qoo
SAKURAIさんのコメント
2024年10月12日

共感ありがとうございます!

ラストの奥の方のアレですよね?!
一回観て気づきました(笑)
音もしてましたしね。

SAKURAI