劇場公開日 2024年12月27日

ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い : 映画評論・批評

2024年12月24日更新

2024年12月27日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー

ハリウッド映画と日本のアニメの良さが融合した“理想の合作”

ロード・オブ・ザ・リング」(「LOTR」)らしい荘厳な音楽をバックに、カメラが空撮風に山の上からおりていって馬を駆る主人公のヘラをとらえた冒頭シーンを見た瞬間、これはすごいものが始まったと思った。ピーター・ジャクソン監督らがつくりあげた実写映画「LOTR」3部作の世界観を、日本の手描きアニメのスタイルで重厚かつゴージャスに描く、とんでもなく制作カロリーのかかった映像に圧倒された。

日本では馬が描けるアニメーターが少なくなったという話がよく言われ、制作効率の面からも群衆などと合わせて3DCGで描かれることが多くなった。ところが本作では、手描きアニメのルックのまま多くの馬や戦士が駆けまわる大合戦シーンがたっぷり尺をとって描かれる。とにかくすごい映像が連発して、ここが見どころだと特定のシーンが挙げられないほどだ。

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本作は役者の動きをモーションキャプチャーでとりこんだ3DCGで一度すべてのシーンをつくり、それをもとに手描きの作画を行う手法で制作されている。国内アニメでもバンドの演奏シーンなどで選択されるが、限られた舞台の短いパートだからできたことだった。それを本作では、映画1本分まるまる3DCGで一度つくってしまう。さぞ制作期間がかかったのだろうと思いきや、一度3DCGでつくったのはスケジュールを短縮させるための策だったそうで、日本のアニメらしい知恵と工夫と力技が駆使されたかたちだ。「LOTR」3部作でVFXを手がけたWētā FXも全面協力して実写3部作で使われた小道具などのプロップを提供し、それらもすべて日本のアニメのルックとして結実している。

ただ映像が凄いだけでなく1本の映画として面白くできているのは、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」などストーリーテリングに定評のある神山健治監督の手腕が大きいはずだ。初めて自身が脚本を担当しない本作を手がけるにあたり、神山監督は単独で絵コンテを描いている。チームで担当することが多いハリウッド映画とは違い、映像の設計図である絵コンテを監督ひとりで描く。そんな日本の劇場アニメらしい美学が、本作の一本筋が通っているところに繋がっているように思えた。そうした美学が貫けているのは、タッグを組んだ海外の製作陣による神山監督への信頼と、タフな作品に多く携わってきた神山監督の粘り強さゆえだろう。

かつて、日本のアニメスタジオが海外作品の主に絵コンテ以降を手がける「合作」と呼ばれるアニメ作品群があった。また、日本と海外がコラボレーションした大作アニメ映画もあった。そのなかで、ここまでお互いの良さを生かした長編アニメはなかったのではないか。そう思ってしまうぐらいの奇跡的なバランスで、日本だけでも海外だけでも実現しなかったであろう“理想の合作”の手描きアニメーションが誕生した。

「LOTR」3部作のファンはもちろんのこと、「LOTR」を知らない方が本作を入り口に3部作に触れてみるのもよいと思う。子どもにとっては今のファンタジーRPGの原点といえる古典のアニメ化であり、王家の争いと籠城戦が描かれるという意味では時代劇的な楽しみ方もできる。年末年始に3世代で見る映画としてもうってつけの1作だ。

五所光太郎

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