劇場公開日 2025年3月28日

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「幸せの赤いボタン」ミッキー17 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0幸せの赤いボタン

2025年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

興奮

不老不死が実現した世界は
ユートピアかディストピアか。

近い未来、人類は「リプリント」の技術を完成させる。

身体は、
「ZOZOスーツ」をごてっとしたような採寸用スーツで。
記憶は脳から直にコピーし、煉瓦状のメモリに格納。

当人が死亡したら、保管されているデータから
先ずは身体を出力する。
このシーンが滅法可笑しい。
ガコンガコンとプリンタ(?)内を行き来し、
うに~といった擬音が聞こえそうに押し出される。
まるで前時代の複写機のよう。

直近までの記憶を脳に移植し完成も、
造られた個人は
同一人物のハズなのに、何故か性格に違いが出ることを
『ミッキー17』と『ミッキー18』で
我々は目の当たりにする。

以前の個体については、
恋人『ナシャー(ナオミ・アッキー)』の言に依るばかりだが、
四年の間に産みだされた十六人にも相当の差異はあったよう。

では、なぜ彼『ミッキー・バーンズ(ロバート・パティンソン)』は
短期間に死と再生を何回も繰り返したのか。

それは、一種の人間モルモットにされたため。

新薬の開発や未知のウイルスへの耐性を調べるには、
なるほど実験動物よりも生身の人間の方が都合は良い。

夢の技術の「リプリント」は、
なぜかしら個人を不幸にすることに機能している。

未来の地球は荒廃し、人類は新しい惑星に移植を開始。

主人公は借金を返せぬことでサディストの資産家から付け狙われ、
逃れるように移民船に乗り込む。

乗船の条件が、「リプリント」による身体的な貢献だったわけだ。

また生き返られると分かっていても、
死への恐怖は普通に襲ってくる。

生と死は常に一直線上に在り、
同一人物が同時に複数存在することは法律で禁じられている。

が、思わぬ出来事から『17』と『18』が併存したことから、
物語りは大きく動き始める。

『ヒトラー』を彷彿とさせる、
移民団を率いる政治家に反撃の狼煙を上げるのだ。

「タイムリープ」ものでは直接の共闘が不可だし、
〔TENET テネット(2020年)〕でも
互いに触れることはできない。

しかし本作の設定なら、それも可能に。

死と再生の繰り返しは
〔オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014年)〕でも。

先作はスキルアップが引き継がれ、
次第に強靭な人間に変わって行くが、
本作ではコピーされた時に弱っちければ以降はそのまま。

そうひた設定も上手く考えられている。

自分がもう一人居たらとは、
誰もが一度は持つ妄想も、
「いやまてよ」と、ハタと気づくに違いない。

やりたくないことは押し付け合い、
結局は自身が一番大切で、
まるっきり同一個体でも究極の他人。

とは言え、二人同時に危機に陥った時は、
遺伝子の持つ本能が発露する。

『ミッキー』の最大のトラウマは、
幼い頃に母親が運転する車の助手席で
目の前に在った赤いボタンが気になり
つい押してしまったことが事故に繋がり、
母を亡くした原体験。

長じてもそれを引きずり、
贖罪と諦念に囚われ続けている。

身体が変わっても
負の感情が薄れることはない。

彼はそれを払拭できるのか。
辿り着いた惑星での体験が鍵を握っているのも見どころの一つ。

ジュン一
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