「実写版ナウシカを創れそうと思った件」ミッキー17 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
実写版ナウシカを創れそうと思った件
「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督の最新作。人間のコピーを作れる”リプリント”技術が生まれた未来を描いたSFでした。ただそんな技術も倫理的に問題があるという結論になり、地球上では禁止されてしまう。
一方、地球以外の星に”新天地”を求めるフロンティアスピリッツ溢れる”教団”が、宇宙船を仕立てて地球を離れることに。この宇宙船に、人体実験の道具として乗り込んだのが、地球ではどん底の生活を送り、借金取りに終われる主人公・ミッキー・バーンズ(ロバート・パティンソン)でした。彼は、”リプリント禁止法”が適用されない宇宙で人体実験を繰り返し受けるという無体な契約を結んだ上で乗り込んだ訳ですが、未知の宇宙線を浴びたり新薬を投与されたり、はたまたウイルスを植え付けられたりして、その都度死んでしまうものの、”リプリント”によりコピーが生まれるという繰り返し。そして「ミッキー17」という題名は、17番目のコピーということでした。
いずれにしても、この膨大な説明を要する世界観が、序盤で長々と説明されるお話であり、これを受け入れられるかどうかが、本作を楽しめるかどうかの別れ道だったように思われました。
面白いのが、そんなミッキーが実は宇宙船内の女性にモテモテだったこと。メインの彼女はナーシャ(ナオミ・アッキー)でしたが、そのほかにもカイ・キャッツ(アナマリア・バルトロメイ)やドロシー(パッツィ・フェラン)も彼に好意を持っていた様子。”リプリント”で生き返ると判っているものの、毎回死ぬのは嫌だと思っているミッキーでしたが、女性関係では羨ましい限りな環境にあったのが非常にコメディチックでした。
そして4年以上の月日をかけてようやく新天地の星に到着した宇宙船。ところがその星には、”クリーパー”と名付けられた”先住民”がいることが判明。これが巨大なダンゴ虫みたいなかなり気持ち悪い見た目の生物だった訳ですが、恐らく日本人であれば、殆どの人が「風の谷のナウシカ」の”王蟲(オーム)”を想起したのではないでしょうか。その形もさることながら、”クリーパー”が集団で動く様子や、子供の”クリーパー”を針に吊るすシーン、そしてそんな仲間を助けるために団結して人間を襲って来るという設定までそっくりで、これには少々驚きました。こんなに似ていていいのかとも思いましたが、逆に言えば実写版のナウシカも充分に制作可能だと証明された訳で、Netflixあたりで作ってくれないかなと思ったりもしました。
鑑賞後ポン・ジュノ監督を読んだところ、クリーパーは王蟲のほか、アルマジロやトナカイがモチーフになっているとのことで、まあそりゃそうだろうなと思ったところでした。
いずれにしても、最終的に宇宙船の持ち主である”教団”の顔であるケネス・マーシャル(マーク・ラファロ)とその妻のイルファ(トニ・コレット)と、ミッキーやナーシャたちの対決となり、きちんと悪者のマーシャル夫婦がやっつけられるということになり、また”リプリント”の機械も破壊されることが決まり、メデタシメデタシで終わる物語でした。
大枠ではコメディチックなSF作品だと思いましたが、科学の暴走とか狂った支配者と使い捨てにされる貧民の対比、そして独裁よりも民主主義の方がマシなんじゃねという視点などもあり、「パラサイト」で見せた社会派的な調味料もふんだんに使っていて、中々楽しめる作品でした。ただ、説明が少々くどいというか、逆に言えばくどく説明しないと万人に理解を得られないという世界観が、ちょっと微妙かなと思わないでもないところでした。
役者陣では、悪玉のケネス・マーシャルを操る悪妻イフファを演じたトニ・コレットの憎々しい演技が最高。一方ミッキーに好意を持った女性陣では、医療班の一員だったドロシーを演じたパッツィ・フェランの可愛さが、オタク男子の心をしっかりと掴んでいた、いや掴まれた感じで良かったです。
そんな訳で、本作の評価は★4.4とします。