「バビ即一切、一切即ケン。 ライアン・ゴズリング、あんたこんなに良い役者だったのか!?」バービー たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
バビ即一切、一切即ケン。 ライアン・ゴズリング、あんたこんなに良い役者だったのか!?
バービー人形たちが暮らす国「バービーランド」で巻き起こる大騒動を描いたファンタジー・コメディ。
監督/脚本は『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の、名匠グレタ・ガーウィグ。
脚本に名を連ねるのは『フランシス・ハ』『マリッジ・ストーリー』のノア・バームバック。
騒動の原因である定番タイプのバービーを演じるのは『アバウト・タイム 愛おしい時間について』や『スーサイド・スクワッド』シリーズのマーゴット・ロビー。ロビーは本作の製作も務める。
バービーのボーイフレンド、ケンを演じるのは『きみに読む物語』『ラ・ラ・ランド』の、名優ライアン・ゴズリング。
バービーを生み出した「マテル社」のCEOを演じるのは『ズーランダー』シリーズや『LEGO(R)ムービー』シリーズの、名優ウィル・フェレル。
物理学者バービーを演じるのはドラマ『セックス・エデュケーション』シリーズや『ナイル殺人事件』のエマ・マッキー。
ナレーターを務めるのは『モンスターズ・ユニバーシティ』や『ワイルド・スピード』シリーズの、レジェンド女優デイム・ヘレン・ミレン,DBE。
妊婦の人形、ミッジを演じるのは『リリーのすべて』や『プロミシング・ヤング・ウーマン』(監督/脚本)のエメラルド・フェネル。
👑受賞歴👑
第96回 アカデミー賞…歌曲賞!
第81回 ゴールデングローブ賞…主題歌賞!
第49回 ロサンゼルス映画批評家協会賞…美術賞!
第29回 放送映画批評家協会賞…オリジナル脚本賞/最優秀コメディー賞!✨
1959年にマテル社が発売が開始。今や全世界で親しまれている着せ替え人形「バービー」。販売数は10億体を超えるというのだから、その影響力は計り知れない…まぁただ、日本だと「リカちゃん」というタカラ製着せ替え人形が覇権を握っており、バービーの存在感は薄いのだが。
日本はともかく、世界的なバービー人形の人気は凄まじく、これまでに50本以上のアニメ映画やテレビシリーズが制作されているが、実写化されるのは今回が初めて。
おもちゃの実写化ってそんなん需要あるの?なんて思うところだが、よく考えたら『トランスフォーマー』シリーズ(2007〜)だって原作はおもちゃ。過去には『マスターズ/超空の覇者』(1987)や『G.I.ジョー』(2009)なんてものもあったし、意外とこのジャンルには奥深い世界が広がっているのかもしれない。
全世界興行収入は14億ドル以上。これはコメディ映画として全世界No.1の記録である。さらに、『ハリー・ポッター』(2001〜2011)も『ダークナイト』(2008)も飛び越え、ワーナー・ブラザース史上最大のヒット作となってしまったのだから驚く。
日本ではまるでヒットしなかったのだが、これは前述したように日本ではリカちゃんが圧倒的なシェアを有しているためだろう。邦題をしれっと『リカちゃん』に変更していれば、この国でも大ヒットしていたのかもしれない。
やれフェミニズムだのWOKEだのポリコレだのと外野がグチグチ煩い作品だが、女児用玩具を題材にした映画なのだからそんなにややこしい作品ではない。メッセージ性は強いが、基本的にはバービーで遊ぶ子供も、かつてバービー人形で遊んでいた大人も一緒になって楽しめるストレートにとっても面白いコメディ映画である!!いや、マジで何度も爆笑してしまいました🤣🤣🤣
特に笑わせてもらったのはバービーのボーイフレンド、ケン。バービーの付属品として扱われる悲運のおもちゃである彼だが、『トイ・ストーリー3』(2010)にメインキャラクターとして登場し、その続編となる短編映画『ハワイアン・バケーション』(2011)では主役を務めるなど、近年再評価の機運が高まっている…ような気がする。
そんな彼がついに実写化。しかも演じるのは名優と名高いあのライアン・ゴズリングである。
本作の1番の衝撃は、「ライアン・ゴズリングってこんなに良い役者だったのっ!!?」という事。『ラ・ラ・ランド』(2016)や『ブレードランナー 2049』(2017)、『ファースト・マン』(2018)でどこか影のあるキャラクターを演じていた彼。いぶし銀ではあるが華はねぇよな〜…なんてこれまでは思っていたのだが、今回の好演を見てその印象は180°激変。頭空っぽのバカを、ここまで完璧に演じる事が出来るとは!!もう本当に本人もこういう人なのだとしか思えない。この人の資質はむしろこっち方面の役で生きるのでは?
ライバルのケンを演じた『シャン・チー』(2021)のシム・リウとのコンビネーションも抜群。この人こんなに体が動く役者だったんだ。うーん、デイミアン・チャゼルもマーベルも、役者の使い方を間違えていたんだなぁ。
バービーというタイトルであるが、はっきり言って記憶に残っているのはケンのことがほとんど。もうこんなんタイトルを『ケン』に変更するべきですやん。
家父長制と有害な男らしさのバカバカしさを、こうも見事に画として見せられてしまうと、男として恥ずかしいとかそういうのを通り越してもう爆笑するしかない。マンスプとかギターとか、心当たりがあるかも…。反省しますもうしません😢
グレタ・ガーウィグ監督の前作『ストーリー・オブ・マイライフ』(2019)は大好きな映画なんだけど、そっちは原作が「若草物語」(1868)というだけあってかなり文芸的な作品だった。てっきりそういうアーティな作風を得意とする監督だと思っていたので、これほどまでにはちゃめちゃなギャグコメディで勝負してくるとは思わなかった。しかもそれがちゃんと面白い。この人に撮れない映画はないのか!?
グレタ・ガーウィグの才能、その底知れなさには畏怖の念を抱かざるを得ない。
大変楽しめたのだが、ギャグとシリアスのアンバランスさは気になるところ。
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020)や『プロミシング・ヤング・ウーマン』など、マーゴット・ロビーはフェミニズム要素を色濃く反映させた作品をこれまでもプロデュースしてきている。そんなロビーとガーウィグ監督が手を結んだのだから、当然ながら本作も男女の格差や性差別に深く切り込んだ内容となっている。
そもそも、バービー人形を実写映画化しておいてガールズ・エンパワーメントを打ち出さないなんて事はあり得ないのでそこは良いのですが、ステートメントの表明があまりにストレートすぎるのはいかがなものか。
顕著なのは後半、男根主義に目覚めたケンによってバービーたちが洗脳されてしまうというシークエンス。展開としてはなかなか悍ましいのだがその描写はとことんバカバカしいという、笑いながら観ていられるシーンで急に「人間界の女性はこんなに苦しんでいるのよ!」とか大真面目にセリフで言われてしまうと「お、おう…」と怯んでしまう。
クライマックスもそうで、ケンvsケンのバカな大戦争の後に「あなたはあなた、私は私」的な正論でお話を纏められても「いやそれはわかってるんですけど…」と冷や水を浴びせられた感じになっちゃう。
忘れてはいけないのは、これはあくまでも「バービー人形」の映画化であるという点。
フェミニズムは大切な事だが、それよりも本作では〈バービー人形で遊ぶ〉とはどういう事なのかを追求するべきなのでは?女の子に”ファシスト”と罵られたバービー人形の存在意義とはなんなのか、そして次の世代にバービー人形を引き継いでいく意味とは、みたいな感じのおもちゃ論をもっと強く提示して欲しかった。
そういう意味では同じくワーナー・ブラザースが配給している『LEGO(R)ムービー』(2014)の方が、おもちゃとはなんなのかを真摯に追求していた様に思う(ちなみにこの映画、ウィル・フェレルが『バービー』とほとんどおんなじ様な役で出演しているのでまだ観ていない人は要チェック!)。
最後は人間になるというピノキオ的なオチもなんだかなぁ…。
「何にでもなれる!」というメッセージは立派だが、流石に人間は人形になれないし人形は人間になれない。そもそも、人形よりも人間の方が素晴らしいって本当にそうか?死なないし老けないし毎日ハッピーなら人形の方が良いじゃんねぇ?
第一、クライマックスで良いところを持っていったルース・ハンドラーとかいうババァ、脱税の容疑で起訴されてんぞ!信用しちゃならねぇ!!
…と、めちゃくちゃ笑える映画なのだが、少々頭でっかちさを感じてしまう。
登場人物がほぼ全員バービーとケンという、ほとんど禅の様なバカバカしいアイデアは最高なのだから、もっとそういうエキセントリックな方向に振り切って欲しかったのが本音。怒れるバービー軍団が人間界に押しかけ世界を崩壊させ、最終的に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)の男女逆転バージョンが始まるとかだったらもう花丸あげてた。
にしても、パパ活ケンとかコックリングケンとかお腹の胎児を出し入れできるミッジとか、この映画の製作陣以上にマテル社の頭はイカれているよね💫
マテル社の皆さん、確かにおかしいですよ!
あんなん描き方されてOKなんですし。
堅苦しくなく「女性」の現状が描かれていましたが、男性に対してもありましたよね、男性が故の苦しさとか。ケンは常に添え物、男らしさというところで嘲笑の対象になっているがそれ、どうなん? と思いました。ライアン・ゴスリングあっぱれ、よくやりましたよね