劇場公開日 2023年8月11日

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「本作のヒット具合でその国のジェンダーレベルが明らかに」バービー クニオさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本作のヒット具合でその国のジェンダーレベルが明らかに

2023年8月14日
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鑑賞方法:映画館

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 たかが人形ひとつから、とんでもなく深淵な世界観まで分析してしまった圧巻の傑作映画。とことんキュートでおしゃれなのに、性差の概念を解き明かす最先端の側面と、「オズの魔法使い」のような原理主義的クラシック大作の両面を持つ、極めて重大な問題作でもありました。

 そもそも映画「トランスフォーマー」に関わるのが米国第二位の玩具メーカーであるハズブロ社である。この日本生まれの玩具を全米で展開し販売し、さらに勢いに乗るマーベル関連の玩具も手掛けている。この競争相手企業の現状に、全米トップの玩具メーカーであるマテル社の忸怩たる思いは想像に難くない。そのマテルが遂に自社最大の資産であるバービー人形をモチーフにした映画に参入、ってのが粗々の本作のプロセスでしょう。

 本作の冒頭で「2001年宇宙の旅」の壮大なパロディが堂々と再現され「ツァラトゥストラはかく語りき」が鳴り響き、ベビー人形が次々に破壊されてゆくドキモ抜くシーン。従来の女の子の人形と言えば赤ちゃん人形で、お母さんになってベビーのお世話をすると言う女性の概念の固定化を、一挙に打ち破り登場するのがバービーだと、製造元が堂々と宣伝する。言うまでもなく八頭身のスレンダーな美女で、金髪碧眼の成人女性の着せ替え人形が人気を博する。

 当然に大ヒットの裏には功罪もあり、女性の概念を打ち破ったハズなのに、常に美しくあらねばならない脅迫概念まで植え付けてしまった負の部分までも、本作では遠慮なく暴いて行く。こりゃ本気ですよ、マテル社は。白人オンリーから肌の色・髪の色・目の色までも多様性に鑑み拡張し、妊婦までも登場させた失敗談まで語るのですから。

 マーゴット・ロビー扮するバービー人形の生きる世界は、女性ありきの世界。だからライアン・ゴスリング扮するケンはバービーの下僕同然。ところが人形にあるまじき老いの先にある死の概念がよぎったことから、リアルの人間社会にバービーとケンが侵入し騒動が起こる。リアルの世界では男性優位、マテル社の役員はすべて男性で、シルベスター・スタローンのマッチョ信仰から、「ゴッドファーザー」の家父長制まで引用する。当然にケンはすっかりミソジニーに染まりバービーランドを様変わりさせてしまう。

 結局はバービーもケンも自身の性に固執の利己の世界から利他の概念に気付かされ、肯定感に満ちたと言うか進化を遂げる域まで描く。こうした性差をセリフでは勢い堅苦しくなるところを、超ポップなデコレーションなセットを背景に、臆面もなく群舞とミュージカルまで総動員して映像化する。これこそが革命的でなくてなんであろう。ここまでの正論を導く高等戦術には舌を巻くしかない。翻って、堂々たるバービー人形のコマーシャルになっている事をも思い知る、だから凄いと。

 マテル社の壮大な賭けを大成功に導いたのは脚本・監督のグレタ・ガーウィグ、そして制作・主演のマーゴット・ロビーなのは間違いない。逆に言えばここまで掘り下げないと、表層的な矛盾に行きあたってしまうから、なのでしょう。21世紀のこの段階で女性差別に対する論理を打ち立てた事がとんでもなく素晴らしい。たかが人形に社会の概念の分水嶺かもしれない領域を提示され、この映画のヒットの度合いによって、その社会(国)のレベルがわかってしまうでしょう。ましてや本作は原爆のゲの字も関係なく、大ヒット作2作に喜んだ一部の米国のファンの無知な投稿なんぞによって、本作を見ないとは勿体ないし残念、実に。

 それにしても、ライアン・ゴスリングの演技力が後半を支えているのは確か、しかも弾き語りので披露の素晴らしさは認めますが、個人的にはリアム・ヘムスワース(ソー役のクリスの弟)の方がいかにもケンと思うのですが。でも、もしそうなったら主演の2人ともがオーストラリア出身ってのもマズイのかも。アジア系の代表のような扱いで登場のシンチーことシム・リウが良い味わいなのが特筆もの。八頭身とは言い難く、イケメンとも言い辛い、でも妙な愛敬が本作のコメディ調を支える。

 軽いノリのおふざけコメディに終わらなかった本作は間違いなく映画史に残るでしょう、それくらいの重要作品なのです。

クニオ