「映画史に残る傑作」バービー Masatoさんの映画レビュー(感想・評価)
映画史に残る傑作
世界的に有名なマテル社のバービー人形が実写映画化。最初はどんなアホ映画になるんだろうと想像していたが、グレタ・ガーウィグがとんでもない映画にしてしまった。2020年代を代表する映画として確実に映画史に残る作品になるであろう。今年ナンバーワンの傑作。
「ワンダーウーマン」で「トイ・ストーリー」な映画。バービー人形の世界観を利用した至極アホ極まりないコメディは存在しつつも、アダム・マッケイばりの強烈なポリティカル要素をもってミソジニーな現実社会を徹底的に風刺し茶化していく。超シニカル。その数は一回見ただけでは把握しきれないほどに膨大で、秒単位で挿入してくる息をつく暇のないスピード感。ミソジニー、家父長制、Toxic Masculinity、女性差別、アンチポリコレへの茶化しなど列挙するととんでもないことになるのでとにかく見て欲しい。
バービー人形がもたらした夢や功績と逆に良くなかった部分までもありのままにすべてを描いていき、現実社会までもそれに内包していく。特に女性自身が抱えてしまっている問題がバービー人形のもたらした罪と繋がっていく。例えば完璧な容姿やステータスからなるルッキズムや、自分はこうでないと駄目だと型にはめてしまうアイデンティティの欠如による自己嫌悪(鬱)、老化を嫌悪するエイジズムなどが理想とされすぎたバービー人形の闇の部分として描かかれているところが良くて、そこから自分が自分らしくいられるありのままの自分を模索し肯定していく自己肯定へと繋がるのが最高。
またバービー人形の世界観における男性の扱い方にも言及していき、ケンが何者でもないただのケンでしかなく、それは現実社会の女性の扱い方と同じであったことと重ね合わされていて、男性キャラのほとんどが超バカには描かれている(死ぬほど面白い)ものの、相互リスペクトの偏りのない物語でもあった。彼らも有害な男性性に侵されたことによるアイデンティティの喪失を経ていて、自己の内省に目を向ける様が的確かつ素晴らしい。結局は女性も男性も関係なく自己肯定の物語へと帰結する秀逸さ。
でも最後にはしっかりとバービー人形が与えてくれた夢や希望、感謝が込められていてこの集大成感が大感動。バービー人形の総決算でありながら、現実社会のこれまでの総決算でもある。それでいて「あなたはあなたのままで美しいよ。何にも囚われず自分らしさを探して」と背中を押してくれる。あまりにも素晴らしすぎて胸がギュッとしめつけられる。
女性ならば共感を呼び、男性ならひたすら学びになる映画となっていて、男性の私には学ぶ要素が大いにあったし、無意識にそうしてしまったことへの反省の機会を得られる。自分の愚かさに気付くこともありながら腹を抱えて笑える。こんなコメディを待っていた。
純粋なアホコメディから毒見の強いシニカルなコメディ、そこからシリアスにドラマにへとシームレスに繋がれていく映画としての出来の良さも凄くて流石グレタ・ガーウィグ。コメディの種類もバラエティ豊かでメタ的なものも沢山あるし、ワーナー自社作品を使ったものもあるので面白い。もちろん政治的なものもある。
キャスティングも見事。マーゴット・ロビーはもちろんのこと、ライアン・ゴズリングも最高すぎた。こんだけ奇天烈な世界観なのに演技力ひとつで雰囲気をすべて変えていく。マーゴットはプロデューサー、フェミニストとしても着眼点が鋭くて凄いし、売れた始めた直後にBIMBOって言われていたのを軽く自虐的に挿し込むのも勇気があって良い。
他にも面白いカメオ出演もあるのでサイコー。俳優を知っていると面白い小ネタもあって本当に笑えた。
一番注目されているかもしれないサントラも公開前から聞きまくって最高だった。Dua LipaやLizzoのレトロなダンス・ナンバーからCharli XCXやAva Max、Pinkpantheresなどの現代ならではのエレトクトロニックなものまで目白押し。そしてもはや御大的な存在感の大好きなビリー・アイリッシュが哀愁とエモーショナルの洪水みたいなピアノ曲で映画をキュッと締めてくれる。
こんなとんでもない映画化企画からこんな大傑作が生まれるとは思わなんだ。何もかもが煌めくようなエネルギッシュさを持ち合わせた革命的な映画。2020sを代表する映画になるだろう。
非常に共感しました。
決して男性を責める意図はない感じがしました。男性社会を持ち込んだバービーランドもあれは俯瞰してなきゃ作れないし、男がいつも勝手にイメージしてる女の世界とレベルを合わせてあって爆笑ししました。
今じゃなきゃ作れなかった映画で2020sの代表的な作品だと私も思います。