「観客の期待(と鑑賞料金)は裏切りの彼方に」未来は裏切りの彼方に ricky_oさんの映画レビュー(感想・評価)
観客の期待(と鑑賞料金)は裏切りの彼方に
いやはや、たまにはこんな「ハズレ」もあり得るだろうが、何しろ酷すぎる。まさに観客への裏切りであると感じた。
予告編や紹介レビューでは、てっきり「東欧のナチ化とレジスタンス勢力の衝突、あるいは資本家と労働者の緊張の激化で始まった戦いの中で、それぞれの陣営内で展開が読めない裏切りの連続とどんでん返しの末に大団円を迎える」という硬派なサスペンスかと思った。
だから、そう勝手に思った当方の思い違いでしょ、と言われればそれまでだが。
(本編をご覧になっていない方は、試しに予告編を御覧いただきたい。上記の、当方のような印象を持たれる方も多いのでは)
特にスロバキア映画ということで、かつてのソビエト的なプロパガンダ映画を脱した一連の味わい深い東欧映画の流れを汲むものかと思った。
しかしまず始まって5分の違和感は、「なぜスロバキア映画の俳優たちがぎこちない英語のセリフを喋っているのか」だ。
スロバキアの血と骨を描くなら、スロバキア語で応酬するべきだろう。なぜ製作・脚本・監督が英語の台本にしたのか、非常に、極めて理解に苦しむ。
かつ、その英語の字幕がよろしくない。当方も別に英語に堪能なわけではないが、耳に入ってくる簡単なフレーズでも字幕のニュアンスのズレや冗長さ(あるいは逆に「なぜ、そこを訳さない?」という抜け)が気になって仕方がない。
さて、30分を経過してだんだん苛ついてきた。何一つ伏線めいた出来事もなく、大味で漫然としたプロットが続いていく。
1時間経過して、さすがにもう席を立とうかと迷ったが、いや待て、後半に怒涛の急展開を見せて、売り込み通りの「サスペンス」で観客を引きずり回してくれるかもしれない、という淡い期待を捨てきれず座っていたが、・・・・結局何も起こらなかった。
スロバキアもナチもレジスタンスもへったくれもなく、げんなりするメロドラマ的ヒミツの隠し合いが学芸会のように展開し、唐突に終わったのだ。
これを以ってして「スロバキア映画はダメだ」と烙印を押すつもりは毛頭ないが、上記の通りその香りもなく、歴史的背景も複雑な民族的葛藤もまったく垣間見られない。
それを考えると、劇画ではあるが日本人がユーゴスラビアのパルチザンを壮大にかつ深く描ききったことなど驚嘆に値する(『石の花』坂口尚)。
いや、そういうことに期待しなくてもサスペンス映画として出来が良ければ良いのかもしれないけれど、それもない(個人の感想です)。