「シアトリカル体験型バッドトリップ」インフィニティ・プール パングロスさんの映画レビュー(感想・評価)
シアトリカル体験型バッドトリップ
クローネンバーグ親子にも詳しくなければ、ホラー映画にも詳しくない。
親父さんのデヴィッドの作品も大昔に『ヴィデオドローム』を観ただけのような気がする。
それも、テレビでだったかも知れない。
それでも、ウヘっ、キモっと感じるには充分だった。
息子がブランドンといって、やはり映画監督であることも、寡聞にして初めて知った。
本作、最初に表示されるスタッフクレジットからして、全面パステルカラーのバックに、スタッフ名が反復する形で示され、異常感がある。
本編に入ると、どこやらの海に囲まれたリゾート地の島(リ・トルカ島という)らしい、それなりに美しい景観が次々と映し出されるが、わざと焦点を浅くして周囲をぼやかした上にピンボケを狙っているので、夢の中のような、ふわふわとした浮遊感に包まれる。
カラリングもパステル調が強調されているというか、この世ならざる色調だし、カメラの角度や構図の切り取り方も、普通ではない。
とまぁ、最初から狙ってるなぁ、と思うしかない。
ホテルスタッフは、民族的には、いったい何人なのだろうか。
昼パーティーの司会者は、一応、英語を話す白人のようだが、何やら土地の民族儀式を説明して、客にも友情の印として、フェイスペイントを施すなどという。
付き従う現地スタッフは、醜い仮面を着けていて、何人かはおろか、本当はどんな顔なのか分からない。
主人公は、6年もの間、一作も書けなかった作家のジェームズ・フォスター。
演ずるは、ちょうど絶賛大ヒット中の『DUNE2』で、マツコデラックスことハルコンネン男爵を演じている名優ステラン・スカルスガルドの長男アレクサンダー・スカルスガルド。
彼の弟のうち3人も俳優だという。
何だ、これ。
日本の歌舞伎界が、21世紀の今もって世襲制を金科玉条として俳優の再生産を行なっていることを評して、信じられない、まるで文明以前の未開人ではないか、と、よく言われるが、
本作では、監督も、主演俳優も、まごうかたなき世襲2世ではないか。
ここからして、何かが狂っているのかも知れない。
この島には、「街」と呼ばれる繁華街があるようだが、ジェームズは、
「あんなのが街なものか、信じられない」
と唾棄するように言い捨てる。
「街」には中華料理のレストランがあって、内装は赤を基調とした、いかにもな店内だが、フロアスタッフは、中華服に身を包み弁髪を垂らした、白人男性である。
今どき、スタッフの中華服まではあっても、弁髪垂らしてるヤツなんている店あるか、
相当に悪趣味だ。
文化の盗用、
アジア蔑視の極みだ。
屋外ステージでは、「インディアンダンス」と英語で看板を掲げてボリウッド系の群舞が上演中だ。
(順不同、時系列無視で記述する)
要所要所にあるプレートや説明文は、英語の部分は分かるが、何やら見慣れない文字のような、文様のような象形文字らしきものが記されている。
ここは、どこだ、、
何でも本作、『パラサイト』を配給した会社NEONの製作とか、、
もとい、いったい、どこのリゾートなのか。
アジアか、
オセアニアか、
それとも、製作に参加した、
カナダか、
ハンガリーか、
クロアチアか、
ストーリーの本体は、どこかに詳しく書いてあるだろうし、省略するが、
メインのキャストが白人男女と黒人女性だけで、アジア系が皆無というのも、今どき、わざとなのか。
作品全体に漂う、嫌ぁな感じのアジア蔑視感も、わざとなのか。
ジェームズを、ダークサイドに堕とす、メフィストフェレスにして、グレートヒェンというかファムファタールを兼ねたガビ・バウアーを演じた、終始粘着的な気味悪い表情で見つめて来るミア・ゴスの怪演がいちばんの見どころ。
あとは、セックス、クローン処刑という形での殺人、ドラッグ、イジメ、、
と悪行、悪徳、悪趣味の限りを尽くして、バッドトリップを体験させる手練手管。
悪徳を娯楽としてし放題、やりたい放題、
ということでは、ピエル・パオロ・パゾリーニの『ソドムの市』を想起させ、同性愛を指す「ソドミー」も行われているとセリフにはある。
そもそもストーリーなど、あってないようなもの。
ジェームズの内心が分からないから、共感も、反感も持ちようがない。
そもそも、バッドテイストが持ち味だからと言って、アジア蔑視をエンタメとして消費してもらっちゃあ、かなわん、、
だから、大幅に減点して、、
とは思うものの、やはり作りあがりは、そこそこの水準だし、一定の気味悪さ、気持ち悪さは味わってしまったので、スコアは平均点でいいかなぁ、
とか、ついつい日和ってしまう私も、もはや召喚、もとい、狂わされてしまったのだろうか。
他の方も指摘されているが、
開始前にはなかった配給、製作会社のロゴクレジットが、エンドロールが終わったあとに次々と流されたので、なかなか席を立てなかった。
終わりのあとにも、何か期待して、、
これも狙ってやったんだろうなぁ、、
そうそう、『ボーはおそれている』で子ども時代のボウを演じた子役が、本作にも出ていたと思うが、彼で良かったんですよね。
子どもに、あんなことやらすなんて、倫理的に許されるのか、、
これも、減点対象ではないか、、
でも、作りあがりは、、
(遠い目をしながら、、