「インフィニティ・プールの境界が見えて、その手前で身体だけ残せるものがあの島で楽しめる」インフィニティ・プール Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
インフィニティ・プールの境界が見えて、その手前で身体だけ残せるものがあの島で楽しめる
2024.4.10 字幕 MOVIX京都
2023年のカナダ&クロアチア&ハンガリー合作の映画(118分、R18+)
リゾート地に訪れたスランプ中の作家が奇妙な出来事に巻き込まれる様子を描いたホラー&スリラー映画
監督&脚本はブランドン・クローネンバーグ
原題の『Infinity Pool』とは、「淵がなく海と繋がっているように見えるプール」のこと
物語の舞台は、架空の島「リ・トルカ島」
6年間新作を発表できていない作家のジェームズ(アレクサンダー・スカルスガルド)は、資産家の娘である妻エム(クレオパトラ・コールマン)とともに、そのリゾート地を訪れることになった
作品のヒントを得たいと思っていたものの、ジェームズには何も降りては来なかった
その日、レストランエリアに出向いた夫婦は、常連のガビ(ミア・ゴス)とアルバン(ジャリル・レスペール)の夫婦と出会った
ガビはジェームズの作品を読んでいて、ファンに会えたジェームズは誘いを断ることができずに一緒に食事をすることになった
楽しいひと時を過ごし、ガビは「明日、一緒に島を散策しよう」と誘う
リゾート地のルールとして、敷地外に出てはいけないというものがあったが、ホテルの従業員ドロ・スラッシュ(Zajad Gračić)から車を借りて、人知れぬビーチにいくことになった
未曾有の体験をしたジェームズはほろ酔い気分のままハンドルを握るものの、車のヘッドライトの不調によって前が見えなくなり、そこで現地の農民を轢いてしまう
警察に連絡しようとするものの、この島の治安は最悪で、捕まれば生きて帰れないと脅されてしまう
そして、アルバンに言われるままに被害者を残してホテルへと帰ってしまったのである
物語は、ホテルに戻ったジェームズが地元の警察イラル・スラッシュ(トーマス・クレッチマン)のところに連行されるところから動き出す
イラルは車を貸したドロの甥っ子で、彼が車を貸したことは内密にしてほしいという
そして、言われるがままに、「車を盗んで人を轢き殺した」という犯人に仕立て上げられてしまう
この島では「殺人=死刑」というルールになっていて、ジェームズは被害者家族によって処刑されることになった
だが、イラルは「この国では金を払えば自分のクローンを作り、そのクローンが身代わりとなって処刑してもらうことができる」と言い出す
ジェームズは金を出し、奇妙なプールに入って、自分のクローンを作り出し、そして、被害者の長男が刑を執行する場面を見ることになったのである
映画は、この国のルールを知った富裕層が好き勝手しては、クローンに刑を代行させる遊びを描き、ジェームズたちは戸惑いながらも、それに巻き込まれていく様子を描いていく
ガビと同じように、このルールを熟知している友人たちも参戦し、ホテルのオーナーGergely Trócsányi)の邸宅からメダルを強奪したり、イラルの家に侵入して拉致し、罰を与えたりしていく
そして、その度にクローンが罰を代行し、ついにはジェームズ自身が自分のクローンに刑を執行するという悪ふざけまで始まってしまうのであった
映画は、かなり悪趣味な内容になっていて、安全地帯にいる人々がハメを外す様子を描いていく
それでも、この奈落には適性があって、平常時にいかに普通に戻れるか、というものがあった
エムは早々に脱落して帰国し、ジェームズはガビたちに巻き込まれ続けるのだが、彼は帰国途上でそれを取りやめて島に残ってしまう
それは、日常に戻って、平常でいられるかがわからなかったからだろう
帰りのバスでは普通に戻っている6人を見て、ジェームズだけはいまだに夢の中にいて茫然自失の状態だったので、その懸念が彼を迷わせ、帰国するタイミングを失ったように思えた
いずれにせよ、かなり悪趣味な映画で、エログロ満載の内容になっている
その世界にもどっぷりと浸かれず、日常に戻っても不毛なのはわかっているし、おそらくは結婚生活も終わりを告げる
それゆえに、どこにも行けなくなったジェームズが途方に暮れるという感じになっていた
彼には、インフィニティ・プールの境界が見えない人物で、その行き来というものが器用にはできない
それゆえに、間違って海に落ちたまま、戻れなくなっているように見える
彼にとって、それが幸せなことなのかはわからないが、元の世界に戻る地獄の方が彼には見えてしまっているので、あの選択になるのはやむを得ないのかなと思った