「自己破壊の美学」インフィニティ・プール Tiny-Escobarさんの映画レビュー(感想・評価)
自己破壊の美学
責任感や罪の意識、モラルから解き放たれた人間は、最後に何を娯楽とするのか。
テーマは深く、表現はキテレツです。この辺はさすがクローネンバーグ御大の息子だなと、しみじみします。
主人公は自分のことが超大切なナルシストでありながら、どこか内面では徹底的にそれを破壊されることを望むドMな面も見えます。特に、最初のクローンが処刑される様子を見ているときのスカルスガルドはいい顔をしていました。(長いので、以下はスカ_nと呼びます)
クローンの経緯は、一回観ただけは追い切れませんでした。
覚えている限りでは、こんな感じでしょうか。
スカ_org
スカ_1 → 轢き逃げの罪 → 処刑された
スカ_2 → 屋敷襲撃の罪 → 処刑された
スカ_3 → 警官コス → ボコボコにされた後はどうなった?
スカ_4 → 犬 → どのスカに殺されたかよく分からない
観終わって残った違和感は、「骨壺の数」と「顔の傷」。
お土産の骨壺は3つで、生成されたクローンの数よりも1個少ないので、2人のスカが生きていることになります。
それを前提とすると、賢者モードに切り替わった金持ち軍団と一緒に空港に辿り着くスカには傷があって、足も引きずっていないのでスカ_3っぽい。
※スカ_3の記憶は警官コスでのボコが最後であり、著作をけなされたり、犬スカを殺す羽目にはなっていないと思われます。
場面が飛んで、帰らなかったのかなと思いきや、雨に打たれているスカには顔の傷がないので、だとすれば、スカ_3が彼女のもとに帰って、スカ_orgは実は残っている。
シーズンオフにいても怒られないのか? とか、もしかしてスカ_orgはずっとリゾートにいて、クローンのスカ_nを毎年呼んでたりする? とか、この辺は妄想が膨らみます。
そうなると、なぜか旦那より文学的な表現に長けているリッチな彼女のエムにしても、LAではいつまでも新作が書けない旦那のクローンで遊んでいるのかな? という風にも見えてきました。
というのも、海外のブログで指摘されていましたが、空港でスカが提示する搭乗パスは2018年のものです。
となると、スカは新作を6年書いていないと言っていたので、初年度でドハマりし、金持ち軍団とは違った目的で自己破壊されに来ているという風にも見えるので、この映画は穿った見方をするとキリがないです。
色々考えると眠れず、もう1カ所ぐらい風呂敷を閉じてから終わってくれと思ったので、☆は4つです。
色々と結論に至らない点が多いですが、面白い映画でした。
どれだけぶっ飛んだ設定でもついて行けるのは、甲高い囁き声でイギリス英語をヒソヒソ話すミアゴスの怪物的な演技があってこそ。
私が気に入ったのは、悩みながら増えていくスカよりも、「もがき苦しむ自分の死」だけがエンタメとして残った、悪趣味な金持ち軍団の方でした。
彼らがマンソンファミリーのように屋敷を襲撃する姿や、他の観光客に食べ物を投げて遊ぶ場面には(投げていたのはスカでしたが)、バラードのテクノロジー三部作にも通じるような、退廃的な美しさがあると思います。
ちなみに、劇中でスカの著作として出てくる『変わりゆく鞘』=『The Variable Sheath』は、ブランドンクローネンバーグが実際に書いた未発表の小説だそうです。
それを映画の中でミアゴスに徹底的にけなしてもらっているわけで、もしかしたらクローネンバーグ自身が、劇中のスカ_orgを超えるドMなのかもしれません。