劇場公開日 2023年3月17日

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「戦後最長政権が残したものとは。」妖怪の孫 レントさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0戦後最長政権が残したものとは。

2023年3月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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安倍政権に批判的な人、そうでない人、共に見るべき作品と言えるだろう。なぜなら両者は共に同じ船に乗っているのだから。

安倍晋三の父方の祖父安倍寛は戦時中東條英機に逆い、反戦を貫いた。その息子晋太郎も地元に住む在日朝鮮人などに対して分け隔てなく接する人格者だった。

しかし、晋三はかつてA級戦犯であり昭和の妖怪と呼ばれた母方の祖父岸信介に心酔し、彼を超えることを政治目標とした。

本作では何故安倍政権が戦後最長政権になりえたか、そして彼の政治姿勢、国会での虚偽答弁の数々、内閣人事局を設置しての官僚支配、報道機関への圧力等々、議会制民主主義を破壊し、挙句の果てには憲法まで実質形骸化させた事実が描かれる。
多くは既知の内容ながら、ともすれば日々の生活の中で忘れ去ってしまうため、こうやってひとつの作品としてまとめてくれたのは非常に有り難い。

安倍政権での一番の罪はやはり閣議決定のみで実質改憲ともいえる憲法解釈の変更を行い安保法案を通してしまったことだろう。岸の念願だった改憲は要件が厳格であり不可能に思えた。しかし、安倍政権は法の番人である内閣法制局を手中に収め、憲法解釈を捻じ曲げてしまった。
これが何を意味するのか、それはまさに憲法の有名無実化である。この手法を用いれば憲法のどんな条文も形骸化してしまうのである。人権規定なども例外ではない。

勿論、改憲手続きを経ずに憲法に反する安保法案を通してしまったことは憲法違反以外のなにものでもない。そして、岸田政権になった今でも軍事費倍増、敵基地攻撃能力保有などと歯止めがかからない状態になっている。

これらの違憲状態が常態化すれば憲法18条などで禁じられている徴兵制度も解釈を変えて認められるかもしれない。戦争ができる国になれば自衛隊入隊希望者は激減するだろうから徴兵の必要が生じるだろう。
徴兵制度なんてそんなバカなと思うだろうが、閣議決定だけで憲法解釈を捻じ曲げ、集団的自衛権を認めたことがすでにそんなバカなことなのだ。

そして鳴り物入りだったアベノミクス。その正体は財政ファイナンスであり、ハイパーインフレを起こしかねないため、先進国では御法度とされている危険な手法である。
コロナ対策に使途不明の予備費10兆円というのが話題になった。国債をばんばん発行して日銀に大量に購入させて潤沢な予算で選挙前にバラマキを繰り返し政権を長らえさせた。予算は国民のためではなく政権維持のために使われてきたのだ。そのせいで作られた国の借金は将来世代が負わされることとなる。

また長年の金融緩和で弛緩した企業は経営努力をしなくなり、国際競争力は低下し、株価に対する日本の実体経済は著しく乖離している。一人当たりのGDPは韓国に抜かれてしまった。
元財務官僚の方が言うには日本の財政破綻も近いとのこと。そうなれば国民の生活はいっそう厳しくなるだろう。今現在の円安による物価高など比べようもないくらいに。

これらの負の遺産を残した安倍政権は退陣したが、相変わらず最大派閥の安倍派が党を牛耳り、現首相の岸田は彼らの操り人形に過ぎない。
能力もなく問題発言を繰り返すような安倍派議員を役職に就けることからもそれは明らかだ。
そして一時あれだけ騒がれた統一教会問題もほとんど報じられなくなった。統一地方選を前に今期国会でLGBT法案が見送られたことからもわかるように自民党は彼らとの関係を断つ気が全くない。
はたして自民党支持者たちは反日団体とのこの癒着に納得してるのだろうか。

もちろん日本のマスメディアの罪も大きい。中国やロシアのように政権批判をしたところで命まで奪われるわけでもないのに、報道の自由度が下がった要因が報道機関の自粛が一番の原因などと、本当に情けない。
テレビなどではほとんど政権の問題を取り上げなくなり、政府与党は仕事をしてるイメージ、野党は批判ばかりというイメージがいつしか定着してしまった。
選挙に行くにも得られる情報が少ないため結局与党に投票するか選挙に行かないかとなってしまう。

戦争の危機、経済的危機、日本という船は危険な方向へと向かいつつある。このまま何もしないのかあるいはこれらの危機を回避できるかは有権者一人一人の一票にかかっているのだろう。

最後に表現が不自由なこの国で身の危険を顧みず声を上げてくださった内山監督、今は亡き河村氏に代わりプロデューサーを務めてくれた古賀氏、勇気を振り絞って証言してくれた現役官僚の方たち等々に対して敬意を表します。

レント
Mさんのコメント
2024年1月23日

現政権は、常に批判の対象になっているイメージがあります。対して、この政権の時には、なんとなく批判がしにくい雰囲気がありました。それはジャーナリズムのレベルの話ではなく、普段の職場や知人その他の会話の中でです。無言の圧力というのか、本来意識する必要のなかった場面で何となく物が言いにくい。
私はこの映画が未見ですが、レビューを読んで見てみたくなりました。

M
ミカさんのコメント
2023年12月18日

本当日本がむしゃぶり尽くされている感があります。

ミカ
NOBUさんのコメント
2023年4月2日

今晩は
 コメント有難うございます。
 20%の得票率でも、与党でいられる仕組み。それは、選挙に行かない人が多いからですね。そこを上手く利用して様々な組織票で固めて得票率を確保しているのが自民党ですね。
 今作では私の知らなかった事は、ほぼありませんが、改めて観ると彼の方の強かさには恐れ入りました。
 そして、与党の先を見据えた戦略の数々。多分、”日本会議”の面々とあの右傾した組織を支える学者、東大教授を始めとしたブレインがいますね。暗鬱たる気持ちになるドキュメンタリー作品でした。只、ドキュメンタリー作品は作りての想いも強く反映されるので、その点は気を付けたいですね。(かつて、「主戦場」で痛い目に会っている。)では。

NOBU