「素敵な映画を観ながら一足早いパリ観光。如何にもフランス映画らしい人情噺の良作。」パリタクシー もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
素敵な映画を観ながら一足早いパリ観光。如何にもフランス映画らしい人情噺の良作。
①予告編を観て全く予定調和的な話だろうと思ったし、ラストも全く予想通りだったのに嗚咽を抑えきれなくて、マスクの上から口を押さえてしまった。
巧い(私が泣き上戸なだけかも知れないけど)。
②さすが映画を生んだ国フランス。難解な映画も多いけど、昔から人情噺を作らせても上手い。
③但し、単なる泣き笑いのcomedieではなくて、マドレーヌの人生の断片を聞いている中で、シャルルは自分が生まれる前のフランス人(特に女性)が経験した哀しく厳しい近代史に触れるという苦味もある。
④“人は一回笑うと一年若くなる、一回怒ると一年歳を取る”という素敵な言葉を教えてくれた父親は、パリが解放される数日前にナチスによって銃殺される。
マドレーヌの人生で一番幸せな時間を与えてくれた進駐軍のアメリカ兵マットは帰国して向こうで家庭を持った(日本の戦後でもよくあった話)。
マットはそれでもマドレーヌにとって何よりも大事な息子を残してくれたが、それが新しい悲劇の元となる皮肉。
⑤それにしてもマドレーヌも思いきったことをしたものだ。私はてっきり息子を殴った手を焼いたものと思ったが、レイの息子を焼いたとは。同じ男としてはちょっとレイが可哀相に思ったが、1950年代のフランスの妻の社会的地位の低さとDVの実態を暴露するには、これくらいの劇的インパクトは必要だったのだろう。
私も“男”は“女”に手を上げた時点で“男”ではなくなると思うくらいDVは許せません。
私はフランスはてっきり“女”の国だと思っていたので、1950年代のフランスでは女性(妻)の社会的地位が低かったと知って驚いた(勉強不足ですね)。
それに現代に至るまでフランスを含むヨーロッパではDVの問題は深刻だということも映画鑑賞後まで知らなかった(更に勉強不足)。
映画を観ているときは、マドレーヌが後半生をDV撲滅運動に身を投じたのも自分が当事者であると共に過去の行動から闘士としての代表に祭り上げられたのだろう、くらいに思っていたのだか、現代でも充分に深刻な問題なのだ。
それでシャルルが「25年は長すぎるなぁ」と言ったのも理解できる。
⑥それにマドレーヌも結局充分な償いをすることになった。女盛りを牢獄の中で過ごすことになったし、大事な息子の成長を間近で見られなかった。刑務所に入っている間に息子は学生運動に飛び込み(5月革命?)、結句報道カメラマンになってベトナムで戦死する。
身を呈して守った息子だったのに短い間しか一緒に居れず、過去の事件のせいで肩身の狭い生き方をさせてしまった…
⑦さて、暗い話はこれくらいにして、人生で一番幸せだったというマットと過ごした日々の中で共に歌った(という印象があるのだけれど)『on the sunny side of the street』。去年の朝ドラの『カム・カム・エプリバディ』を思い出してしまった。
⑦来年はパリオリンピックに行くつもり。その時にパリに住むフランス人の友達にパリ案内をしてもらおうと思っているけれども、一足先にパリ観光の予行演習をした感じ。
それくらいシャルルが運転しマドレーヌが乗り込んだタクシーから眺めたパリの街は美しかった。
⑧フランス語原題“Une Belle Course”。ピッタリです。