「空虚な男の冒険と敗北」パスト ライブス 再会 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
空虚な男の冒険と敗北
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いろんな感想を評を読んでも、ああそういう見方があるのかとも思うものの、なにか自分とズレがあるような気がしてしょうがない。つまりは、観た人の数だけ解釈があるような、それでいて曖昧さから自由に受け取ってくださいというより、すべてが明確に描かれた結果だると思わせる強度がある。
自分にとっては、と、つい前置きしてしまうが、ヘソンという男の空虚さがアタマをまとわりついて離れない。運命の相手と再会さえすれば、自分と相手の心を揺らして、なにか人生を変えてくれるのではないか、そんなだいそれた望みをどこまで自覚しているのかわからないが、とにかく空っぽのままNYにやってきてしまった男。
自分の望みに自覚的で、夫との居場所も手に入れたノラにしてみれば、ちょっとノルタルジックでほろ苦いエンタメを消費するような気持ちだったんじゃないか。しかもヘソンとの再会がもたらしたのは、いま手に入れている生活への圧倒的な肯定である。そもそも過去しか差し出せないヘソンに勝ち目などハナからなく、ヘソンと自分の熱量の隔たりを思い知って、ノラは最後泣いたのではないか。少なくとも、自分を思うことしか拠り所のない平凡な男の人生のためにも、あの涙はあったのではないか。
さりとてヘソンが現状への満たされなさを埋めようとNYに来たのは間違いなく、ヘソンが空虚なのは自業自得である。しかしそれがヘソンの限界であると残酷にも描かれてしまっているからこそ、この映画には怖さがある。と、まあ自分にとってはそんな映画だし、人生を粗末にしてしまった男の悲劇として(も)、傑作だと思う次第です。
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