「no way to say goodbye」パスト ライブス 再会 humさんの映画レビュー(感想・評価)
no way to say goodbye
彼は忘れられない初恋の人の気持ちと今の幸せを確かめたかったのだろうか。
場合によってはあの時の2人に戻れるのかも知れないと感じたのだろうか。
ノラが住む雨あがりのNY。
12年前のSkype以来、36歳で再会しに来た24年前の幼なじみヘソン。
ほほ笑みながらさらりとヘソンにハグしたノラ。
数秒遅れてぎこちなく腕をまわすヘソンにみえる複雑な動揺と別々の長い時の流れ。
そしてノラの夫•アーサーはこの再会の運命の成り行きを静かに見守っているようにみえた。
ノラをただ信じようとしながら。
冒頭のバーのシーンが印象的に繰り返される。
ヘソンの韓国語にはノラを想う一途な気持ちがポロポロとこぼれるように表れる。
ノラは隣でうつむきがちに佇む夫を少し気にしながら時々おおまかな通訳で繋ぐ。
アーサーは言語の全てを理解できなくとも話の内容をつかんでいるようだ。
やはりノラを信じようとしながら。
前日、アーサーがノラに聞いた言葉
「彼は君が恋しかった?」を思い出す。
〝?〟は〝。〟だ。
ノラへの優しさで疑問形を使ったけれど、3人とも、いや彼を見ている誰もがはっきりとわかるほど〝。〟だ。
あの質問にノラはあっさりと答えてみせた。
ノラとヘソンの〝イニョン〟を感じとるほどに内心は不安でいっぱいなアーサーを安心させたいのと、自分自身に言い聞かせるかのように。
だからアーサーはこうしてノラを信じてみようとしているのだろう。
ソウルへ帰るヘソンとの別れ際。
ヘソンを見送りに行くノラ。
アパートでノラを待つアーサー。
このシーンを見守りながらいつかの自分の記憶がフラッシュバックする。
勝手に混ざり合う経験と想像で3人の気持ちは私の頭の中で膨らむ。
それはヘソンのスーツケースのタイヤと同じスピードでくるくるとまわり、最後の選択を待つ彼らの分岐点に一緒に辿り着く。
バーでの最後にアーサーと会話し気持ちが落ち着いたようにみえたヘソンだった。
自覚する立場の違いや、アーサーの人柄や夫婦の愛にも納得した。
しかしまだ燻るものが隠せないほどヘソンはノラが恋しいあの時のままなのだ。
ノラも何かを堪えているのが切ないほどわかる。
タクシーが来るまでの息がとまるような長い沈黙。
ゆらゆらとする気持ちが輪郭をはっきりさせ何度も溢れそうになるけれど、あの坂道の岐路の風景と同じくまた立ち尽くすだけの2人の〝イニョン〟。
そして、ヘソンの精一杯の問いかけに〝わからない〟と言ったノラ。
その強い瞳が本心を塞ぐように「さようなら」を告げた。
ノラを外で待っていてくれたアーサーは全てを理解してくれた。
彼の安堵とその愛の深さがノラを包みこむと感謝が涙になって落ちる。
それはさっきヘソンとの別れに我慢して流さないようにした涙とは違う種類の温かく優しいものだったと思う。
3人の織りなす〝イニョン〟。
私も思いがけず心の奥底にしまいこんでいたなにかを引っ張りだされた。
それを重ねながら行ったり来たりし胸をざわざわさせ、決して思うとおりばかりではない人生の余波の豊かさに浸かる。
味わう記憶を呼び覚ますような体験は年を経てなおのことなのかも知れない。
今日のこの世界もまた格別だった。
コメントありがとうございます。前向きな作品でしたよね。男性の方が感傷的になりそうだなと思いました。アーサーは出来過ぎな夫の様な気も。本当はもっとハラハラを期待して観てました笑
コメントと共感、誠にありがとうございます。少しでもhumさんの感想に近づけたような気がして光栄です。
しかしディテールを含めてまだまだ至りません。?と。、アーサーの問いかけが思い起こされます。バーでのやり取り、韓国語の言葉、あの時に戻ろうとしていた。人柄、夫婦の関係性、humさんのレビューでまた解像度が増えました。
humさん、拙レビューへのコメント、ありがとうございました。
そして、またhunさんの繊細なレビューを超えた感動のドキュメントに、また溢れる思いに落涙しそうになりました。
幼いころ別れた坂道、記憶は書き換えられて、今度はしっかりお互い確かめ合っての別れに変わっていたように覚えています。
あゝ、本当に、またいつか、この感動を確かめたくなる忘れられない作品となりました。
共感コメントありがとうございます
タクシーを待つ静かなシーンは映画史上に残る名シーンだとさえ思えますね
こうしてこのサイトの皆様と繋がる事もイニョンなのかもしれませんね⭐️
コメントそして共感ありがとうございます。
ロマンティックなヘソン、
初恋を今も引き摺る男性。
その一途さと幼さをユ・テオさんが上手く演じてました。
普通一般のラブストーリーと違って、自我を強く持つノラ。
ノラの視点から描かれたのが、とても今日的で2024年のリアルタイムの
新しさが多くの国や人々に支持された理由かも知れませんね。
ヘソンは、「自分の気持ちに区切りをつけるため」と自分に言い聞かせていたと思いますが、心の奥底にある期待が顔に出てしまってましたね。
『卒業』みたいな強引なことはせずに、相手の幸福を願って身を引くところは、東洋的な男らしさを感じます。
今晩は!
アーサーは内心ヒヤヒヤだったように思いながら観てました!
あーいう恋愛って人を傷つけますよね。切ないドラマだったけど、鑑賞からだいぶ時間経った今になると彼女が周りを傷つけたよなーって、ちょっとムカムカします(笑)
レビューを読ませていただき、さらに感慨深い気持になりました。
最後の3人それぞれの言動には静かに刺さるものがありました。ノラを涙させたものにはいろんな感じ取り方があるんだと思いますが、アーサーへの感謝って良いですね。
humさんのレビューが本当に素敵で、見終わった後の余韻を引き出してくれます。
ところで、誤操作でフォロー解除になってしまい、再度フォローさせていただきました。スマホやタブレットの指の位置のせいですが、寝落ちする時などにやりがちで💦すみません。
共感ありがとうございます。
男女で区切る事はあまりしたくないのですが、男二人の間には共感みたいなものが流れていたように感じました。ただ言語疎通が出来ない! この辺がじれったいですね。
昔大事にしていたものが思いがけず見つかると感慨が湧く、再び見えなくなると泣いてしまう気持ちもなんか共感出来ますね。