劇場公開日 2024年4月5日

「恋の思い出の下に隠れているもの」パスト ライブス 再会 うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0恋の思い出の下に隠れているもの

2024年4月10日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

前評判の高さの割に地味な作品、というのが最初の感想だった。
ただ、地味であるからこそ身近に感じる部分もあるわけで、キラキラキュンキュンした恋愛ものよりもリアルな共感を持った人も多かったのではないだろうか。
登場人物たちが抱く未練や嫉妬や困惑、そしてそれを表に出すまいとする大人としての振舞いは、ただ夢中になって突き進むことが許されている年頃の表情ではなかった。

メインの三人にはそれぞれのバックグラウンドや現在の立場があり、それが個々の感情に影響している人物造形も面白かった。
子供の頃も大人になっても、ヘソンを「男らしい」と表現するノラ。韓国にもアメリカにも独特のマッチョイズムがある。
アメリカのマッチョイズムからは離れた存在であるノラの夫・アーサーはこの評価に随分衝撃を受けているようだった。ノラがアメリカ式の男らしさや韓国式の男らしさを重視していないとわかっていても、自分の知らないノラを知っていることや同じ文化をルーツにしている点も含め、ヘソンの存在にアーサーは動揺しっぱなしだ。

ヘソンが言葉にはしないまでも自分に気持ちを寄せていること、彼が過去の思い出を美化し過ぎていることをわかった上で彼をはっきりと拒まないノラは、人によっては思わせぶりな女性に見えるかも知れない。
ノラの優しさとも優柔不断さとも八方美人ともとれる態度からは、ヘソンがノラを象徴とした過去ののびのびとした時代を振り切れないように、ノラもまた自分の居場所や所属がはっきりしていた頃の居心地の良さに後ろ髪を引かれている気持ちがうかがえた。

男性像に対してコンプレックスのあるアーサー、韓国の普通の暮らしを無難にこなしながらも自信のないヘソン、自立して居場所を獲得し続けているが時折不安定さに揺れるノラ、それぞれが築いてきた人生が恋の思い出の下に透けて見える、深みのある物語だった。

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うぐいす