「川上未映子という作家」アイスクリームフィーバー モトハル('21〜)さんの映画レビュー(感想・評価)
川上未映子という作家
原案者・川上未映子のファンとして、ジャルジャルファンの同行者に誘われ鑑賞。ちなみに出演は後藤ですが、同行者は福徳推し。
ネタバレにならない範囲であらすじを述べると、とあるアイスクリーム屋を舞台に…というのはやや言い過ぎで、とあるアイスクリーム屋の周りに漂う2幕の人間模様を描いた物語。
川上氏の短編には造詣が浅く、原作は恥ずかしながら未読でしたが、軽快なテンポの中に登場人物の背景を確かな密度で織り交ぜ、それがキャラクターや物語の「重さ」として降りかかってくるこの感覚は、川上作品そのもの。川上氏の作家としての輝きもさることながら、初メガホンでこれを映像へと落とし込む監督の実力に感服しました。
(追記: 原作を開いたところ、私が「川上作品そのもの」と感じたシナリオはほぼ全てが本作制作陣による脚色であったことが分かりました。女史に対する私の解像度が低いのか、脚色のレベルが大変に高いのかは分かりませんが、どちらにせよ、小説から映画への昇華という点で素晴らしいクオリティの脚本であると言えるでしょう。)
世の中の感想を少しサーチしたところ様々な点で賛否両論あるようですが、少なくともストーリーに関して骨太なものを求めることは、本作のような群像劇に対してはナンセンスでしょう。寧ろ、大きな文脈の無い日常を切り取ることこそが邦画の醍醐味でもあったはずです。
また、登場人物のマイノリティ性に関しては「最近の流行り」とかではなく、世の中に普通に存在しているものの一つとして偶々登場した設定に過ぎないと捉えるべきだと思います。
映像表現に関しては…好みかな。確かに挑戦的とも言える演出が多くありますが、純粋に監督の個性として、私は気に入りました。
個人的には、現代邦画と小説の良さが体感できる名作であると感じました。
余談ですが、実は先日同行者からいただいた誕生日プレゼント(小説数冊セット)の中に原作が収録された文庫本が入っていました、というサプライズつき。先に教えてくれても良かったけどね。