「6月3週に埋もれた超良作。おすすめ一作(特に女性の方)」魔女の香水 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
6月3週に埋もれた超良作。おすすめ一作(特に女性の方)
今年199本目(合計850本目/今月(2023年6月度)24本目)。
私はどちらかというと高い点数は、どうしてもひいき目があるのかミニシアターで放映される映画につけることがあるように思われるかもしれませんが、ミニシアターであろうがなかろうが、作品としてよいもので、かつ、きちんとした主義主張が感じられる作品についてはどこであろうが(ミニシアターであろうがなかろうが)高く評価しています。
本作品もその一つで、6月3週はマルチバースもの2本あり実質「埋もれた」状態ではありますが、ここ最近で見た映画では飛びぬけてよく、「2023年上半期ベスト10」には来そうな一作品です。
展開としては理不尽な理由で契約解除をされてしまった女性の(元)契約社員の方が、香水という技術、知識を使って自立していき、無事に成功するか…と思いきや、実は彼女をとりまくいろいろな人に秘密があって、その自立(映画内では会社を設立)がどうなるか…という趣旨のストーリーです。
まず、映画のタイトル通り「香水」とあるので、「やや」女性の視聴者の方が有利なのかな、という点は感じられましたが、そこは男女あまり関係がない(ほぼ誤差範囲)と言えます。ここの配慮が感じられたのが一つのグッドポイント。
もう一つは、「理不尽な契約解除は許されるものではない」という労働法規一般についての問題提起が明確に感じられた点で、これ自体は社労士の法律系資格持ちの観点なのだろうとは思いますが、広く浅く扱える行政書士の資格持ちでもこの点は強く評価できます。
※ 映画内では間接的に描かれますが、派遣社員に女性の方が多いというのはリアル日本においてもそうであるため、「男女同権思想」を明確に想定できる描写、言動もあります。ここも極めて評価が高いです。
また、これらの問題提起がはっきりとしているため、無駄なシーンがほぼほぼ存在せず、また、描写飛びや説明不足等から生じる「いきなり何を言い始めるのかよくわからない」という点もまったくありません。今週はどうしてもマルチバースもの2本の勝負(というか、つぶしあいか…?)という要素が強いですが、こちらの作品、半年で200本ほど見るヘビーユーザーの私も納得の一作で超おすすめです。
なお、ストーリー(香水を扱う)展開の都合上、フランス語が突然出てきたり、香水用語(?)が出てきたりという部分は確かにありますが、ここも文句のつけようがないほどしっかり説明があり、これは納得の一作です。
今週はどうしてもマルチバースもの2本の見比べあい合戦になりそうな予感ですが、本映画、特に女性で香水に興味のある方などおすすめです。見た後の「すっきり感」もすっきりしていますし(時々、中途半端に終わってよくわからないという映画もありますので)、気持ちよく映画館を出たいなと思ったらおすすめの一作です。
採点にあたっては下記を考慮した上で、加算減算考慮してフルスコアにしています(ただし、減点要素には注意)。
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(加点3.0/男女同権思想の現れなど)
・ この映画、上記に触れた通り、男女同権思想の考え方がきわめてしっかりしていると同時に、現在リアル日本で問題視されている派遣切り等の問題を「正しく」扱っており(まぁ、契約打ち切りの理由が明確でない等はあるものの、それを言うと映画が始まらない)、これらの点に正面からぶつかった一方、香水文化といった、一般的な知識ではないことを扱った映画として評価できます。
(減点0.6/質屋営業法と古物営業法について)
・ こちらは、どちらも実際問題、行政書士の資格持ちとしては扱う法律ですので、描写不足(やや説明が足りない)は気になったところです。
まず、質屋に関しては、私人間どうしの質入れ行為には民法に「質権」がありますが、これが直接適用されることはほぼなく(純粋たる私人が質入れ行為をすることは通常ない)、通常はこの特別法の質屋営業法が適用されます。
※ この法の前身が「質屋取締法」で、これが出たのが「銀河鉄道の父」です。
ただ、映画の中ではもう使わなくなった「あるもの」を質屋に入れているシーンが見られますが、そうなりますと「古物営業法」の規制も受けます(つまり、質屋の中で実質古物買い取りも行う、という行為がその規制を受けます)。通常の質屋は両方の規制の元で、一般的な「質屋」だけの営業を行っていることも少なく(いわゆる質物の管理が面倒なので、買い取ったほうが早いという経営上の実際上の問題による)、この場合、古物営業法の規制も受けます。
ただ、映画内の描写は不足しており、どちらの法も弱者保護の観点(質屋に何かを質入れするというのは、一般的にはやはり見られませんので、どうしても顧客が弱者側になることが多いのです)と、「犯罪にかかわったような(主に盗品等)、捜査上勝手に取引されてしまうと困る」という理由からの「差止め」(質屋に流質などさせず保存を命ずるもの。古物営業法にも同趣旨規定あり)が主に規定されており、どちらの描写も不足しているのが、やや残念に思いました。
※ また、この2つは根拠法が違いますので、質屋営業法「のみ」で質屋を経営している方が古物買い取りができるわけではなく(逆も同じ)、この点の説明不足(エンディングロールに一言ほしかった…)は、まぁ行政書士の資格持ちは気にするのかもしれませんが、ちょっと残念なところです。
※ なお、「古物営業法」は、いわゆるゲームショップの「ゲーム買取」や「カードゲームのカード買い取り」などにも適用されるので、実はこちらのほうが身近です。