劇場公開日 2023年7月28日

「戦場の俯瞰図は圧倒的だが、話のバランスが惜しい」キングダム 運命の炎 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5戦場の俯瞰図は圧倒的だが、話のバランスが惜しい

2023年7月28日
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原作はほんの一部を読んだだけである。2019 年の「キングダム」、2022 年の「キングダム2」に続く第3作である。前作では蛇甘高原における魏との戦闘と羌瘣との出会いが描かれた。本作では、秦に 40 万人もの兵を惨殺されて恨みを持つ趙との戦闘が主であるが、前半では趙に人質として残された嬴政が趙から脱出して秦に帰る時の話が回想されている。

脚本に漫画の原作者が加わっているため、原作のリスペクトは徹底している。嬴政の昔話の比率がかなり長くてバランスを欠いていたように思われたが、原作者にとっては思い入れのある部分なのだろう。闇商人の紫夏の物語は感動的だった。紫夏の部下の亜門を演じた浅利陽介が、「相棒」の青木そのまんまだったので笑った。

大軍の陣形を俯瞰して見せる視野の取り方は圧倒的で、非常に見応えがあった。これこそまさに映画でなければ出来ない表現だと思った。大軍を思いのままに動かすのが王騎のような将軍の役割であり、兵の少なさや弱さを補うのが将軍の器だというのはもっともな話で、その器というものの正体こそが軍略の能力である。信は王騎の下で軍略を身につけたのかと思わせられたが、相変わらずの個人技の戦闘力がメインだった。

呂不韋の怪しさや昌平君の血筋の正しさを感じさせる配役は見事だったし、山本耕史の趙荘将軍や片岡愛之助の馮忌将軍は、「鎌倉殿の13人」を思い出させた。ただ、長澤まさみの楊端和の出番が非常に少なかったのが残念の極みであった。王騎が信の百人隊に名付けた「飛信隊」は、字幕が出なかったのでどんな字なのかずっと気になって仕方がなかった。これも不親切だったと思う。

音楽は1作目からの継続で非常に壮大なもので好ましかったが、冒頭のナレーションがかき消されるほど大音量だったのは配慮が足りなかったと思う。また、エンディングの宇多田の歌は映画の雰囲気には全く合っていなかったと思う。今作は前作よりも中途半端な終わり方に思われた。次回作で改善されることを期待したい。
(映像5+脚本3+役者4+音楽5+演出5)×4= 88 点。

アラカン