「宮崎駿監督の感性が織り成すアート作品」君たちはどう生きるか coquericottさんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎駿監督の感性が織り成すアート作品
賛否の分かれる作品ということで、ある程度ネタバレも含めて事前に情報を収集した上で鑑賞しました。
感想としては、ストーリーの設定や脈絡の思考を放棄して、宮崎駿監督のとりとめのない表現物としてありのままに鑑賞できれば、個人的には悪くない作品に感じられました。むしろ2時間、退屈せずに楽しめたのには自分でも驚きました。
「本作はアート作品」とおっしゃる方もいますが、例えばピカソが愛人を花瓶に差した一輪の花として描いた抽象画を見た時や、ハーモニーやリズムが崩壊した中に色んなモチーフの断片を散りばめた現代音楽を聴いた時の感覚に近い印象を受けましたので、そういう意味では確かにアート的だと思われました。
過去作の色んなオマージュ、母性への渇望、現世への遺言。まあ子供を連れて見に行く映画ではないですね。
頭を空っぽにして宮崎駿監督のイマジネーションの世界に浸りましょう。人物の動きや、石や木が壊れるときの物理現象の描写は相変わらず見事ですし、描きたい断片を紡ぎ合わせたような・・・理屈じゃなくて感性だ、みたいな。
一方、ストーリーの緻密さや場面ごとの整合性を求める方には不向きです。
ピカソの絵の喩えで言えば、「なぜ、人の顔をした花が生けられているの?」と説明を求められても、「そういうアートだから」「ピカソにそういうイメージが湧いて、キャンバスに描いたから」としか言えないのと同じことです。
宮崎駿監督自身、訳が分からない。でも浮かんだイメージのままに、筆の進むままに描かされてしまった作品ではないのでしょうか。
「この登場人物は手塚治虫だ」とか「宮崎吾朗だ」とか、確かにそう読み取れる場面もありますけど、そういうメタ的な事に過度に引きずられすぎるのも野暮です。
またアートとして見ても・・・むしろアートであるがゆえに、見る人によって感性が合わなければ見るのが苦痛なのも否めないことです。