「タイトルが全てを物語っている」君たちはどう生きるか letterさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルが全てを物語っている
最初のシーンから圧倒された。千尋からポニョからジブリでは登場人物が走る場面が今までにもあったが、一人称視点で描かれたのは初めて見た。街ゆく人は歪み、対して目指す病院の燃え盛る情景は鮮明に目に映る。事前情報の全くない状態でどんなものだろうと考えていたら最初のあの場面で一気に物語に没入させられた。
「ジブリ世界」に行く前、まひとは喧嘩で負け、自分で自分の頭に傷をつけた。彼はどう話したとしても父親が「自分でつけた傷」だと信じず騒ぐであろうとわかった上でそうしたのだ。その傷こそ彼の「弱さ」、「汚さ」の証左であり、大叔父の提案を「自分は汚れているから」と断った所に繋がってくる。
また、ジブリ世界では同じく頭部に傷を持つキリコが登場するが、彼女はその傷について戦ってつけられた傷だとしていて、「強さ」、「勇猛さ」の象徴となっているキリコの傷と、「弱さ」「汚さ」の象徴となっているまひとの傷で対比がされている。
そしてアオサギとは嘘をつかないまひととつくアオサギで対比されている。だが、先述した通り嘘はついていないが「弱さ」が見えるまひとに、アオサギは「弱虫」と煽っている。そしてその後にタイトルの元となった「君たちはどう生きるか」を読んだまひと。まひとはこの本の読前と読後で明らかに行動が変わっている。
この作品はまひとの成長を描いていて、作中で成長したまひとは「弱さ」の象徴である傷を受け入れて、「弱さ」を抱えながら人として現実で生きていくことを選んだ。そんな、1人のまだ青い少年が一人の人として生きていこうとするまでの成長を、一つの例示として描いたのだ。そして、それがタイトルにつながってくる。
「この少年はこのようにしてこの現実で生きていくことを選びました。
さあ、君達はどう生きるか」