「アニメは自叙伝の挿絵に過ぎない」君たちはどう生きるか あああさんの映画レビュー(感想・評価)
アニメは自叙伝の挿絵に過ぎない
『君たちはどう生きるか』
この映画の本質は徹頭徹尾『自叙伝』で、ファンタジー部分は『自叙伝の挿絵』なのだと感じました。
なので、物語的に『なぜ?』と感じたところは基本的に『本に取り憑かれた大叔父が、高次元の存在の力を借りて創造した理想の世界』に過ぎず、『理屈や道理なんてない』のが答えなんだと思います。
私達の多くが『君たちはどう生きるか』が理解できないのと同じで、作中の登場人物達にとっても『大叔父の理想の世界』が理解できないんです。
私達ですら理解できない世界を、主人公だけが理解出来た……。だからこそ後継者に選ばれたのです。
なので、作中に点在する多くの謎の伏線回収なんてものは作中になく、ここでがっかりする人も多かったのかなと。
制作側の目線で言えば、『こういうの描いてみたら絵的に面白そう……というか描いてみたい』だとか『あの本とあのアニメ大好きだからオマージュ入れたろ』だとか、その程度の意味合いのシーンも多いのかな……と。
もちろん、恐らくこういうことだろうと考察できるシーンも多く存在しました。
けれど、それは『物語を通して1番言いたいこと』ではないのです。
再度言いますが、この物語は宮﨑駿という1人のアニメーターの自叙伝です。
宮﨑駿が人生を通して積み上げてきたものは、アニメーションでしか表現できない。
宮﨑駿という男の人生がアニメと切っても切り離せないが故に、ジブリと切り離せないが故に、
『スタジオジブリ最新作長編アニメーション』の形をとっているのです。
ただ、だからこそ最後のシーンの『あばよ』というセリフいうが刺さりました。
培った技術や世界観をこれでもかと見せつけることで、
『これが俺の人生をかけて培ったものの全てだ』
『俺はこう生きたからな』という宮﨑駿監督の声が聞こえた様な気がして。
『君たちはどう生きるか』というタイトルの伏線回収がお見事だな、と。
通算5度目の、しかし今度こそ本当の引退宣言。そして、『君たちはどう生きるのか』という孫の成長を見守る老人のような……、後進への不器用な愛に溢れたラストであると感じました。
故に、自叙伝(書き下ろしアニメ付き)として見ると本当に面白い作品だと思います。
老年の自分語りを、説教などないままにここまでの作品に消化出来るのは彼の才能ゆえでしょう。
宮﨑駿という天才の積み上げてきた素晴らしい技巧に興味のある方は、間違いなく見ても損はありません。