「宮崎駿監督の新しい作品が映画館で観られることは本当に嬉しい」君たちはどう生きるか tani9さんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎駿監督の新しい作品が映画館で観られることは本当に嬉しい
多くの方が書いているように、娯楽作品としての完成度は高いと感じられず、最後まで期待を大きく超えるような瞬間がなかった。絵もアニメーションも美しいものの、かつてのジブリアニメ、宮崎アニメのスペシャルな何かが欠落しているように思えて。何か寂しい物足りない気持ちが残ってしまった。
私の知性と感受性の無さも多分にあるんだろうけど、そうであれば求められるものが高すぎるし、2回3回と観て少しずつ解釈を上書きしていくマニア的楽しみ前提のようなものも正直辛い。そのような楽しみ方もあって当然だけど、映画は初見1回でも十分楽しめるものであってほしい。なのでこの点数が限界。
全然正しくない気もするけど、私の1回見た限りでの考察は、
内向的で鬱屈した頭の良い少年が、母からの「君たちはどう生きるか」を読んで、世界や周囲の人間に対する新しい自己のありかたや価値観を獲得し、神曲をモチーフにした創作世界(塔)に挑む。
塔の原理を司る石は西洋からやってきた価値観や文化、資本主義や商業主義、消費主義的な、なんというかアメリカンゴッズ的な神だろうか。高畑監督ではなくこっちかなあと私は思った。このままでは崩壊を免れない創作世界(塔)の中で、これまで石の元で仕事をしてきた宮崎監督と宮崎少年が対話し決別した結果、現実と向き合い新しい創造の道を歩む。そんな意志表明のような作品。
もう一つの軸は、やはり母、母性、女性に対する価値観。ここも正直もっと強烈な独特の見せ方をしてくれるはずみたいな。
これらは全く間違っていたり、もっと難しい色々複層的なテーマもあるのだろうけど、すぐに2回目3回目を観に行こうとは今は思えていない。
ファンとして宮崎駿監督の新しい作品が映画館で観られることは本当に嬉しいし、引退を撤回し82歳になった監督がここまで芸術的でパーソナルな作品を出してくることにも戸惑いもありつつ、感動している部分ももちろんあり。
でもくどいけど、娯楽作品としても見られる完成度がもう少し欲しかった。
蛇足だけど、最後のシーンで宮崎少年が積木を一つ持ち帰ってたけど、これって積木は風の谷のナウシカでシン・ナウシカやるよー!的な伏線かなって思いました。