劇場公開日 2023年7月14日

「タイトルに恥じない傲慢な映画」君たちはどう生きるか 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0タイトルに恥じない傲慢な映画

2023年7月15日
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アレハンドロ・ホドロフスキーのようなシュールレアリスティックな画面構成とフェデリコ・フェリーニ『8 1/2』のような祝祭性。キャリア終盤の巨匠に好き勝手やらせるとやはりこういうものが出来上がるのか。物語は登場人物たちの溢れ出る生命力によって織り上げられたものというよりは、あらかじめ緻密に構想された一枚の巨大な寓意画を端から端まで徐々に読み込んでいくプロセスのような感じ。『君たちはどう生きるか』というタイトルに恥じない、いつも以上に傲慢な映画だった。登場人物たちの動機に焦点を絞って鑑賞するとひたすら不愉快な気持ちで劇場を後にすることになると思う。

異世界で眞人が出会うさまざまなものごとはどれもが悪夢のように薄気味が悪い。ペリカンの群れと荒野に立った金色の扉とか、天に昇っていくフワフワした生命体とか、人語を喋る巨大なインコとか。変におどろおどろしかったりものものしかったりしないあたりが逆に気持ち悪い。こういう気味の悪い描写や造形に関してはやはり宮崎駿は天才的だと思う。ただ、彼自身本作をキャリアの集大成的なものと見なして制作しているところがあり、それが過去のアーカイブの安易な再奏という形で露呈してしまっているのは正直どうなんだろうと思った。過去作のどこかで見かけたようなオブジェクト、生命体、風景。確かに「あっこれ『もののけ姫』のアレだ!」とか思うけど、それが何か新たな意味や意義を振り出しているとは思えなかった。おい爺さん、この期に及んで安っぽいファンサービスなんかせんでもええんですよ。とはいえ第二次世界大戦開戦直後という時代設定が前作『風立ちぬ』の自己模倣と見せかけて実はきちんと劇中での必然性として機能しているというミスリードは見事だったと思う。

世界の秩序を司る大叔父は眞人を自分の後継者に指名するが、眞人はそれを辞退する。世界を自分の思うがままに作り変えられる特権より、彼は「あんまり好きじゃない」はずの現実世界(母親は死に、継母とはギクシャクし、父親はややマッチョ気味で、世界は今まさに戦火に包まれている)に帰ることを望む。眞人のこの選択が庵野秀明『シン・エヴァンゲリオン』の着地点と相似であることは言うまでもない。ゴー・バック・リアル。セカイ系ってやっぱもうダメなんすよね。セカイはボクだけのものじゃない。名もなき無数の他者がいっぱいいる。庵野秀明もそう言ってるし、新海誠や村上春樹もそう言ってるし、遂には宮崎駿までそう言い出してしまった。本日をもってセカイ系は正式に営業を終了させていただきます。誠にありがとうございました。

これ何の話?

結局、観てて単純に面白いのか面白くないのかと訊かれれば、言うまでもなく面白い。撮影も演出も凝りに凝られているのだから観ていて視覚的に飽きることはまずない。よしんば終盤30分の抽象的で不可解な物語展開に振り落とされたとしても、青空に浮かんだ岩やうねる廊下、水面に点々と並ぶ石畳、あるいはヒミの美しい寝顔に見惚れていればあっという間に終幕する。何か一つのトピックに乗れずとも、他に無数の経路が提示されているのが宮崎駿作品のいいところだと思う。苦手な作品は多いがクソつまらなかったなと思ったことはない。作り込まれてるよなあ。もう一本くらい撮ってくれたら嬉しいな。

P.S.劇中で一番可愛かった鳥は屋敷の庭先でエサ啄んでたヒヨコ

因果