劇場公開日 2023年6月2日

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「寓話的な雰囲気を漂わせつつも、今問われるべき問題を精緻に描写した一作」ウーマン・トーキング 私たちの選択 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0寓話的な雰囲気を漂わせつつも、今問われるべき問題を精緻に描写した一作

2023年7月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

予告編が示す通り本作は、ある共同体で起きた事件を契機に、自由も教育の機会も奪われていた女性たちが、重大な決断を下すべく議論を重ねる物語です。
とはいえ、男性と女性を単純に加害側と被害側に分断して、後者による抵抗を「正しいこと」として扱う、といった単純な構図では捉えきれない切り口を持った作品です。そのため、楽しい気分で劇場を後にする、といった種類の作品とは言いがたいものがありますが、それでも本作で女性たちが下す決断の重さは、受け取る意義が十分すぎるほどあります。

彩度を落とした映像の落ち着いた雰囲気や、女性たちのまとう古風な衣装は、現代社会ではないどこかの時代、あるいは全くの架空の世界を舞台にした、寓話的な物語であるかのような印象を本作に与えています。しかし本作の原案となった事件、そして舞台となる共同体のモデルになった集団が事実に基づいていることからも、紛れもなく現代の社会を扱った物語であるといえます。中盤に登場するあるものの強烈な違和感や、結末がもたらす高揚感とその先に横たわるあまりにも重苦しい予感は、先が見えないからこそ深い感慨をもたらすものです。

しかし同時に、本作にはいたるところに、観客の予断を(おそらく意図的に)混乱させる仕掛けが潜んでいます。それらがもたらす心理的な混乱そのものは、サラ・ボーリー監督の意図通りだとは思いますが、人によっては中盤以降の展開が頭に入ってこないほどの疑問を抱えたまま結末を迎えることになるかもしれません。初見で受ける印象の重要性は重々承知しつつも、本作に関しては、先に述べた実際の事件や集団について、概要だけでも知ってから鑑賞に臨むことをお勧めしたいです。

yui