「南十字星」ウーマン・トーキング 私たちの選択 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
南十字星
北アメリカではその星座はみえない 唯一みえるのはハワイだけ ということはここはあの実際の国、ボリビアなのではないだろうか 天文航法に簡易として劇中に行なっていた、あの腕を上に上げての拳のつきたては勇気を鼓舞するポーズそのものであることも又メタファーとして興味深い そして何より、ボリビアはチェ・ゲバラが最後に参加した革命戦争の場所でもある 偶然とは言え、思想や宗教の中で、何より民主主義を体現した今作の意義はとても強大である
素朴で牧歌的な生活を営む宗教コミューンであるメノナイト内で起きた醜悪な事件で、女性達が選択した行動は?という筋書きだが、中身はとても意義深い深慮に富んだテーマであった 会話劇でもあり、演劇でも充分表現は可能であるが、しかし映画作品としての画の強さはこの作品を雄弁に語る手立てとしてこれ以上ないものであろう
有るネタバレサイトでは、『迷わずに去れ!』なんていう、全く以て劇中での寄り添いのようなものが感じられない乱暴なテキストが掲載されていたが、彼女たちの身上を推し量る、又は置かれた環境を考えれば、それは集団自決に等しい選択なのが全く理解できていない○○警察みたいな短絡的思考なのであろう そしてそれが劇中の事件を引き起こす種だと気付かないのかと暗澹たる思いである その暗澹を打ち消すように突如現われるモンキーズの♪デイドリームビリーバー♪ あの古風な出で立ちや暮らしからタイムスリップしてきたかのような国税調査の車と大音量の彼の曲は、将来の期待や絶望の前触れ、そんな陰と陽が綯い交ぜになった一言で言い表せない曲調である 議論は踊り、在らぬ方向にも寄り道をする その全てが勿論大事な語りであり、不要なモノはなにもない それほど彼女たちには今迄こうして語り尽くす場が無かったからである なんで男達全員がその犯人の釈放を要求するために拘留先に向かったのかの理由は不明なのだが、数の力を利用しようとしたのだろう 逆にそれが女性達への機会の譲渡となることなど考えもせずに・・・ あのストーリーの中で心身とも苦しんでいる人達は等しく非人道的扱いを受けたという事実を基礎とするならば、今作を酷評する輩とどうやって話し合いをすべきなのだろうかとそのアイデアが思いつかない位、合意形成は難しい 日夜国会で行なわれている議論は果して少数派に寄り添った手順を踏んでいるのか 暴力的に多数決が正義と言わんばかりの輩がネット上に溢れている昨今では、ジェンダーやLGBTq+の法案をバックドアが沢山ぶら下がった醜悪な形に作り替えている
ネタバレサイトで大変秀逸なテクストをみた 『差別を誰が決めるのか、それは合意形成で決める』 そしてその中で対応策を探す方向性へと発展していくことなのだと・・・
勿論、今作中でもその合意形成に相容れない人物が存在する そもそも去ることを拒否する者、闘う意志を表し、しかし最終的に従うが、その強引さは女性達を苦しめた魔酔スプレーを我が子にかけるという元も子もない所業 尚且つピストルの譲り受けが将来への新たなる火種に成り得る予感 一筋縄では行かないそれらの思考や行動も、その全ては未来に引き継がせない、悪夢をここで断ち切るという覚悟と勇気を今作では説いているのであろう 戻ってきた男達はこの顛末を、唯一残った教師から訊かされた時にどう考えるのだろうか? 先ずはあの教師を血祭りに上げて、女性達を追いかけるのだろう 男達の未熟さを棚に上げて、顧みない所業に気付かず、憐れな性別は己の正義のみを信じて血眼になる 確かにその性別を躾けるのは"教育"なのであることを力強く今作は訴える メッセージ性の強さ故、今作に胃もたれする観客もいるかもしれないが、そういう人達に相応しい四文字熟語を 『虚心坦懐』